雷牙

「兄様!真面目に聞いてくれ!」


俺は今日も兄様を怒り飛ばしている。


「んー、そうだねー。」


ここの所、兄様はいつも以上に気が抜けている。


「兄様!本当に何なんだ!一体下界で何をしてきている!

そんなに無気力になるなら何をしているかは知らんがやめたらどうだ!」


「んー、そうだねー。」


もうこれは何を言ってもダメだ。


長い事兄様と一緒にいるが我が兄ながら本当に分からん。


「ねぇ、雷牙。」


人間っていきなりいなくなる物?

何だその唐突な質問は。


「さぁ、その人間の状況によるだろう。

死ねば確実に下界からは消える。

そしてあの世に行く仕組みだ。」


「うん、それは知ってるんだよねー。

だからあの世へ行って探してみたんだけどいなくてさ。」


ん?


「兄様……まさか…あの世へ行ったのか?

あそこは神ですら立ち入りが厳禁なのに…。」


俺が兄様の肩を掴み前後に振っていると、兄様が俺の後ろの方を凝視した。


ゆらゆらと揺れていた兄様は真剣な顔つきになりすぐに俺の手をすり抜け歩いていく。


兄様が歩いて行く先には、小太りの山神と美しい女が一人。


女は山神にかなり手酷く扱われていた。


残念ながらこれはよくある光景だ。


きっとあの女は山神の贄だろう。


それはいい、ただ俺は戦慄する。


それに向かって歩いて行く兄様から感じた禍々しいとしか言わざるを得ない神力に。


いつも無関心で他人に興味のない兄様が、怒りを露わにしていた。

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