第94話













激痛に目を覚ますと、そこは病院だった。


あー、俺ってどうやってここまで来たんだっけ。すっかり忘れちゃったよ、誰か教えてくれー。って、頭ん中で叫ぶけど、身体が追いつかない。


ついでに言うと、声も出ない。


とりあえず腹部が痛い、肩が痛い、腕が痛い。なんなんだよ、なんなんだよ全くよー……、


ゆっくり視線を動かすと、誰かが傍に座っていた。


コクリコクリと、頭を前後に揺らし舟を漕ぐ弟の姿が見えて、その名前を呼ぶよりも先に、安堵の息が零れ落ちる。


よかった。起きたての脳でそれだけは判断出来て、しばらくその姿を眺めていた。


ら、弟はハッとはじけるように肩を揺らして、瞼を擦りながら目を開いた。


俺が目覚めたことに気がついたのか、近衛はガタッと、大袈裟に椅子を鳴らし、その場に立ち上がる。

ああもう、いちいち動きが激しいな。




「っ、にいちゃ…!」


「…声、大きい」


しばらく声を出していなかったからか、声が掠れてみっともねえって奥歯を噛みしめる。けど、それすら力が入らなくて嘲笑する。


くっそバカミクあいつ、加減してねえな。ったくよー。


こっちは気が引けて、あんま力強く相手出来なかったってーのに。……ってのは嘘。本当はこの弟を庇うことに必死過ぎて、体力が残っていなかったのが原因だ。それにその前まで全力疾走してたからな。


……タバコ、やっぱ身体に響いてたんだな。って、今さらながら、吸っていたことを少し、後悔した。



兄ちゃん、だなんて可愛い名称で呼んでくれちゃって、泣きそうに歪むその顔に傷が少し、あと痣が少し、なんか色々と相俟ってやばいよ、その顔。ブサイク。




「変なかおーブス」


「んなこと言ってる場合か!!」


へらへらと笑って、天井を見上げる。ああ、ここは病院か、って、思ってはいたけど、改めて再認識。そっか、そっかー。




「………ダメだったか」


崩れるようにして口から零れ落ちた。

ああ、ダメだった。ダメだった。


瞼を覆うように、腕を乗せた。ああ、って何度も心の中で落胆し、溜息を吐き出しても、現実は変わらない。




結論から言えば、俺は、ミクを止められなかった。

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