第93話
「……わかるだろ?」
「わかりません、」
わかりたくもない。そう続ければ、また冬馬さんはにやりと唇の端を上げて、「ホント、頑固なやつ」俺の制服からあっさり手を離した。
少し咳込みそうになりながら襟元を正せば、「お前」と。
「一生、そうやって生きんの」
「……藪から棒になんですか」
「たまには素直な感情ぶつけるのもアリなんじゃねえの」
「だから何の話ですか。……それに、冬馬さんやあの学校の人達は自分に素直すぎるんですよ、…それって、自己中とも言いますけどね」
「可愛くねえ。ホントに小宵の弟かお前」
「行かないんですか。早くしないと、まだ調べたいことはあるんでしょう」
「お前が立ち止まったんだろうが!」
「その姿であんまり声を荒げないでください。怪しさ増します」
「うるせェ!」
頭に拳を喰らった。酷く痛い。景虎さん達と違って、本気で返してくる人だな。
不機嫌そうに睨めば、苛々した様子の冬馬さんは俺の顔を見て少しだけフフンと鼻を鳴らした。
「そういうのだよ、バーカ」
どういうのだ、このクソダサ野郎。
そう言ってやりたいけど、また殴られるのはごめんだ。俺は口を閉じ、何食わぬ顔でその後ろを歩いた。
さっさとこの背中に追いつこう。追いついて、
この人や、あの人たちの顔を不愉快そうに歪ませてやろう。
自分に出来ることはまだわからないけど、そんな目的が一つ出来ただけでも、大分いい。
何の理由もなしに、俺はこの人達の背中を追えない。
理由が欲しい。出来るだけ多くの理由が。
「……、」
何がなしに、聞こえぬほどの溜息が零れた。
何が、説明出来ない感情だ。バカバカしい。
バカバカしいけど、もし、
あるとするなら、
それを黒く、一生見えなくなるほど厚く、厚く、
隅々まで塗り潰してしまえるほどの理由が、
俺は欲しい。
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