第92話

そして、言葉の見つからない俺に、


「ま、むしゃくしゃしたんだろうよ」


まるで何でもないように、さもそんな感情を起こすことが茶飯事であるかのように続けた。


あってたまるか、そんなこと。そんなことだけで。


生き続けてほしいと願っても、無理なことだってあるのに。


一生理解出来ない、それは、それだけは。



「怒ってんのか?」


誰が。


「悪い悪い、言葉間違えた。……あー…なんつうか、人それぞれだろ、そういうのは」


「………そうかもしんないですね、…俺には理解出来ませんけど」


「お前だって……、誰にも言えない、あるいは説明出来ない感情ってのはあるだろ」


冬馬さんは俺の方へと歩み寄り、そのダサい眼鏡を外した。

田舎者のようなメイクをしていても、それすら気にならないほど、張り詰めた空気をその目から感じる。


「っぐ、」


「それが爆発した結果なんだよ、櫻田のした行為は」


胸倉を勢いよく掴まれて、思いっきり首が絞まった。

冬馬さんが睨むように、俺の眼前へと近づく。


元の髪色と似たような色をした目。


それがまるで猛攻するかのようにギラリと光る。その反面、奥の方で暗い青が淀んでいるようにも見えた。

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