第89話
「さっさと終わらせて帰んぞ」
正反対な人だと思ってしまう。
思えば、あの学校の人たちは俺とは反対の人たちばかりだ。
「お、丁度出て来たぞ、良い感じのが」
冬馬さんが上機嫌で言う。前を見ると、眉の凛々しい真面目そうな男がやけに重そうな扉から出てきてる所だった。
迷うことなくその生徒に向かって歩き出す冬馬さん。向こう見ずに見えるその態度に、俺は少しだけ不安になりながら足並みを揃えた。
「すいませーん」
「……はい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
先ほど生徒会室から出て来た生徒に冬馬さんが話しかける。敬語、使ってんの初めて見たな。見た目が見た目だから、きっと演技をしているんだろうけど。
「イイですか?」
ニヤリと笑う口元から尖った歯がギラリと光り、俺は一瞬でもこの人が真面目そうに見えたことを訂正したくなった。
本当に、読めない人だ。
「………なんですか?」
見るからに怪しげな冬馬さんに、背筋を正し、少し警戒心を露わにする。
そんな態度になるのも当然だ。変装感の薄い俺が声をかけるならまだしも、その妙ちきりんなダサい格好をした冬馬さんに引かない人はまずいない。
しかもその見た目に偉そうな態度がそぐわないのだから尚更だ。
「八神さんって、生徒会室にいます?」
「綾人…?」
呟くような声に俺は瞼を上げ、相手を見た。なかなか真面目そうな見た目をしている。
例え外で久東院の生徒だ、と言われてなんの疑いも抱かないほど、洗練された気品を感じるし、その鎖のような白の制服が似合う。
ピンと伸びた背筋や、短髪黒髪、勝ち気に上がった眉や目尻を、脳に焼き付ける。
綾人、と名前を呟いたんだ。
この生徒は八神綾人に近しい人間と考えて、多分、間違いない。
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