第88話

『ねえ、どうして―――は、―――なの?』

『母親、いないって聞いたけど、後継ぎは―――』

『そりゃそうだよ、だって』

『影薄いし、』

『何も出来なそうだもんね、』


『―――のお姉さん』







「お前」


「はい」


「やっぱ外で待っといた方がいいんじゃねェの」


「いえ、平気です。こんなのもう、」


もう、


「慣れましたから」


「……頑固なヤツ。……ああ!そこは小宵と似てるかもな?」


「嬉しくないです。…っていうか、メガネずれてますよ」


「見にきィんだよ!…チッ、誰だよこんなビン底かけろって言ったのはァ」


「……」


アンタだよ。心の中でツッコミを入れる。


掛け始めに「こういうクソだせェの一度かけてみたかったんだよ~」ってゲラゲラ笑って何枚も写真を撮っていたのに、何を言っているんだか。






「……まあいい、そろそろ生徒会室が近ェから、出て来たヤツ捕まえんぞ」


冬馬さんが前を見据え、一度外し掛けたメガネを掛け直す。それを横目に見た後、静かに視線の先を追った。


生徒会室には、久東院を取り仕切っている生徒が所属していると聞く。


八神綾人やその周りの人間も生徒会にいるらしく、情報を手っ取り早く手に入れるならそこを目指すのが近道だとは思うけど、……正直、気が向かない。


この人は急がば回れという言葉を知らなそうだ。どんな危険があろうとも欲しい物があれば、きっと橋どころか細い綱の上であろうとも渡るんだろう。命綱すら付けずに。


「何言ってんだ、急がば急げだろ。いちいち回ってらんねーよ」


声に出していたのか、冬馬さんが何でもない口調で言って、俺の頭を叩くように撫でた。痛いな。

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