第87話

引っ掛かるなら、俺の持つこのカードだと思うけど…まあ例え、万が一俺が引っ掛かっても、冬馬さんは既に校舎内に入っているし、まあ、完全な潜入失敗にはならないだろう、


そこまで考えた時、玄関の改札からは、ピッ、とクリアな音が聞こえた。


どうやら俺の心配は杞憂に終わったらしい。


顔を上げると、冬馬さんが心底ダサい眼鏡を少し下げ、「心配性だな」と鼻で笑った。


なんでもお見通し、というのか。いや、でも普通は心配するし…、俺は当たり前のことを気に掛けただけ。それなのに、



「あなたがおかしいんですよ」


「なかなか言うな、お前」


顔を逸らし、またその隣に並ぶ。


掠れた声で微かに笑って、歩き出す冬馬さん。俺はやっぱり新参者だと、思い知らされた気がした。



校内は至って、綺麗だった。外観通り、流石は久東院とでも言おうか。ただ、



「相っ変わらず、胸糞悪い空気だな」


「……」


隣を歩く冬馬さんは、不機嫌になる一方だった。


空気……、ああ、空気。頷きたくなる気持ちになって、視線で辺りを見回す。


地位や名誉、家柄同士の繋がり、そこから出てくる人望や羨望の眼差し、そしてドロドロと流れ出てくる妬みや嫉み、憎悪の対象。


底が尽きることがなく出てくるソレは、簡単に人を歪ませる。


表だって派手に出すことはなくても、どこかで必ず生まれるカースト制度が、この〝世界〟は酷く異質だ。


慣れていた気がしたけど、久しぶり目にすると、少し、心が荒んだ。

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