第86話

「あの玄関さえ入っちまえば、あとはこっちのもんよ」


髪の毛を黒く染めた冬馬さんは、至極ダサいビン底眼鏡を掛け直し、どこか得意げだった。


髪も大人しくさせて、ピアス類も全て取って、まるで別人。


ついでに「そばかす描いてみてそばかす!」なんて楽しそうにメイクまでし始めて、状況を楽しんでいるようだ。


もう、見るからに大人しそうな……もはや田舎丸だしの小僧みたいな風貌で、逆に怪しさ満点だ。……まあ、わざわざ教えないけど。



「すっげェよテルさんっ!!これ絶対俺ってわかんねェヤツだ!!やべえ…こりゃもう成功の未来しか見えねえな!!」


「ふっふっふ!こんな変装わたしの手にかかればちょいちょいのちょいちょいお茶の子さいさい!もはや原子レベルでいとも容易いのだ!!さぁ!今こそわたしを変身の魔術師メーテルと呼びたまえ!!」


「カッケー!テルさん魔術師だったのかよ!!」


変装を終えてから、ケラケラ笑って大はしゃぎで勝利を確信していた姿を思い出す。得意げになるのも頷ける。


この自信はどこからくるのか問いたいけれど、きっと納得する答えは貰えないだろう。本能で動きそうなタイプだし……。



―――頭の中で色々と考えていたら、いつの間にか玄関前まで来ていた。


まず第一関門か。


ここのセキュリティに引っ掛かれば、その瞬間おしまいなわけだけど、



「おい、弟。先に行くぞ」


「……あ、はい」


冬馬さんは何食わぬ顔で先を行く。本当、どういう神経しているんだろう。失礼な意味ではなく、ただ純粋に思う。


俺もその後を違和感のないようついて行く。


ピッ、と、冬馬さんの持っていたカードで電子音が鳴るのを確認して、次は自分の番。


冬馬さんのは既存のカードで、俺が持っているこのカードは複製だ。

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