第83話

「チッ、どいつもこいつも!」


「あ、泰司さん。どこいくんかいな」


「有松んとこだよ!つかその喋り方やめろ腹立つ」


「紫さんなら今日はおらへんがな」


「アイツはいっつも大事な所でどっかほっつき歩いてんなァ!あと喋り方ァ!!」


「いっででででで!」


ドアに向かって歩き出した泰司さんに、アカネくんはやはりちょっかいを出す。から、頭を思いっきり鷲掴まれて痛そうに声を上げていた。




「なんで掴むの!?痛い!酷い!!」


「喋り方にイラッときたんだよわかれよ」


「そんなんでイラるとかカルシウム足りな過ぎぃ~あり得なさすぎぃ~」


「喋り方ァ!!イラるってなんだボケェ!日本語は綺麗に使え!!」


「いっだい!!」


「大体牛乳嫌いのテメェに言われたかねえよ!!」


今度は頭を思いっきり拳で殴られたアカネくん。そのまま頭を抱え「くぅっ」と声にならぬ声でソファに横になる。



「それを泰司さんが言う……?」


最後の反抗なのか涙目になりながらアカネくんは小声で言って、そのままパタリとソファに力尽きていた。



「………ふ、」


ずっと黙っていた翡翠さんが、口を押さえて笑い出す。どうやら何かが彼のツボに入ったらしい。


それを横目に見て、やっぱり泰司さんは怒りながら「アホしかいねえ」吐き捨てるように言って部屋から出て行った。


泰司さんが部屋から出て行っても、肩を揺らして、小さく笑っている翡翠さん。なんだか珍しい。



アカネくんもソファに突っ伏しているけれど、腕の隙間から翡翠さんの様子を見て「そんなに変だったかな」なんて、少し恥ずかしそうにしている。


けれども、今一度翡翠さんの方を見て、「ふっ」とアカネくんも笑い出す。



「……たしかに変だったかも」



二人の抑えた笑い声が室内に響く中、ずっと黙っていたあたしは、少しだけ、


妙な違和感を、


「どうしたのトップ」


「えっ?」


感じていたけど……、


「いえ……、なんでもっ、」


翡翠さんが気付いてほしくなさそうな顔をしていたから、



「なんでも、ありません」


あたしはそう言って、笑うしかなかった。

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