第81話
呆れたように言って、泰司さんはソファに座り直す。
偉そうに足を組んで、「なんにせよ、オマエは留守番だ」と、頑固に意見を曲げない、泰司さんに、
「じゃあ、どうすんのー!トップと、泰司さんで、どうやって、三國さんを連れ戻しにいくの?」
「連れ戻すっていうのは、事が〝上手く〟運べたらだ。……正直、確率は低い。だからそんなに大勢で行って、被害を拡大させたくないんだ」
「………泰司さんって、」
目を伏せた泰司さんに、アカネくんがぼそっと呟く。その目は少し怒りを宿していて、あたしははっと肩を揺らした。
「たまにすっごく残酷だよね」
「ああ?」
「わからなくもないけど、…仲間思いだけど仲間思いじゃないよね。わからなくもないけどさ」
不貞腐れた子供のようにそう言って、アカネくんは向かい側にあるソファに両膝を手で抱えるようにして座った。
「うるせえな、俺のやり方に口出すな。ガキは黙ってろ」
「ふん」
「……」
嵐のように喧嘩を始めて、しまいには二人してツンと顔を逸らしてしまった。
あたしは何を言ったらいいのかわからず、とりあえず「あっ、あの…」と微かに声を零すしか出来なかった。
「とにかく俺とオサゲ、それから、あとのヤツらは…」
「泰司さん」
泰司さんの声と重なるように、聞こえた声。
それは、あたしでもアカネくんの声でも、ましてや名前を呼ばれた泰司さん自身の声ではない。
酷く懐かしく感じる、風のように吹き通る凛とした声。
そんなに会っていないわけではないと思っていても…、でもやっぱり、懐かしく感じた。
良く通る声。透き通った声。
どんな言葉で形容したって、伝えるのは難しい。
あたしはハッと目を見張って、ゆっくりと振り返った。
今し方喧嘩をしていた泰司さんもアカネくんも、二人ともあたしと同じような顔をして、珍しく吃驚している。
「俺も、ミクを連れ戻しに行く」
「…ひ、すい…さ…ん…?」
声には出なかった。
けれども口が、彼の名前を反射的に呟く。
そんなあたしに気付いた翡翠さんが目を合わせて、少しだけ、ほんの少しだけ、表情を和らげた。
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