第80話

拳を握った泰司さんに、胸倉を掴まれるアカネくん。


あたし達以外誰もいなくて、本来はもっとしんみりしていてもいいくらいなのに、この騒がしい環境にほっとする。


くす、っと笑みを零せば、二人は揃ってあたしの方を見た。


「なに笑ってんだよ」泰司さんがムッとしたように言う。


「…すみませんっ、……そうですよね、感謝、していかないとですね…」


謝るのは、自分が逃げたいだけだから。

謝罪して、安心したいと思っているからだ。


感謝しよう、先に。何よりも先に。


伊吹が帰ってきたら、真っ先に伝えよう。


ありがとう、って。感謝してるよ、って。


「ありがとう…ございます……アカネくん、泰司さん……」


頭を下げれば、二人は顔を見合せて、泰司さんは舌打ちをしながら、アカネくんの胸倉を離す。アカネくんは少しほっこりとした表情で、「うん」と頷き、プリンの続きを食べていた。




「あ、そうだ。コウナンには誰が行くの?いま、平気なのって俺でしょ、泰司さんー、トップーそれからぁ、」


「アカネ、テメェは置いていく」


「えっ、なんで!?」


「オマエは学校の番。御堂達とココを守っとけ」


「えぇー!!俺も行く!行きたい!」


「ダメだ!オマエがオサゲを連れてけって言ったんだから、そんくらい責任取れ!」


「ええ~、そんなのアリ?あと出しじゃんけんみたいじゃん!ずるいよ」


「明日にはコノエ達も来るだろ、まあ、未来の予習だと思え。オマエ達がいずれは上に立つんだから、その勉強してろ」


「やだやだやだ!」


「ハッ!オマエが蒔いたタネだ。せいぜい親指齧りながら留守番でもしてるんだなァ?」


「泰司さんのドケチインチキトンカチ!!」


「とんかちってなんだよ」

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