第79話

あたしは、自分のことばかりだった。


伊吹は、いつだってあたしを迎えてくれたし、ダメなことはダメってちゃんと叱ってくれる。そして、なんだかんだ、あたしのやりたいことを優先させてくれる、そんな出来た弟だ……。


自慢の、自慢の、あたしの弟。


なんでも出来て、優しくて、あたしにとっては完璧すぎる弟。


そんな〝出来過ぎていた〟弟に、あたしは甘えていた。

たくさんのことを気負わせて、いろんなことを我慢させて、


一体いつからだっけ……?


伊吹を〝そう〟させてしまったのは。


一体いつから…?


思い出せない、思い出せないけど、伊吹をあんなに早く大人にさせてしまったのは、あたしだ。


紛れもなく、出来そこないのあたしだ。


「ごめんなさい……」


謝罪の言葉が零れた。そんなあたしにアカネくんは首を振る。


「そんな言葉が聞きたいはずじゃないよ」


頭から、アカネくんの手が離れる。


「水波はきっと、たぶんだけど」


アカネくんを見上げる。泰司さんは黙って、ただ、こちらを見ている。


「ありがとうって、頼りになったよって、トップに笑ってほしいはずだよ」


「っ」


「だから、そんな申し訳ない顔、したらダメだよ」


「ごめん、なさ…っ」


「謝るなって言ってるだろ、学習能力のねえやつだな」


横槍を入れるように、泰司さんが言えば、アカネくんが「こわ。こわいね、トップ」とあたしの肩を掴んで、抱き抱えるように背中に隠す。



「なんなんだよさっきからテメェは!?オサゲのなんなんだ!」


「ヒーロー!!…になる男!」


「ハァ?言ってて恥ずかしくねェのか!くっそだせえ」


「ふん、泰司さんなんて悪の敵だよ。もう関わらないでください」


「ハァアアン!?」

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