第76話

「何勝手に入ってきてんだ!絶対入ってくんなって貼り紙、ドアに貼っといただろ!!」


「だったらもっとでかく書かないと、わからないよ」


「なんだとテメェ!おい、コラアカネ!」


泰司さんに鬼のような形相で怒られているにも関わらず、冷蔵庫が置いてある方に何食わぬ顔で歩いて行きその中から呑気にプリンを取り出すアカネくん。


「どういう状況かわかってんのか!遊びじゃねえんだぞ」


「わかってるよ、ねえトップ?」


「えっ…あ、はい」


唐突に話を振られて、急いで頷く。


泰司さんは目に角を立てながら、「どういうつもりだ」と低い声を絞り出し、



「さっき殴られた、おかえし」


「……」


つーん、としたアカネんくんの返事に、ビキビキィと額の筋を浮かばせて、怒りを募らせた。


そしてしばらく間を空けた後、泰司さんは盛大に溜息を吐き出し、「どうなっても知らねえからな」そう不機嫌そうに呟いた。



「おいオサゲ!!!」


「は、はいっ」


「………すっげえ不本意だけど、テメェのアホな機転とそこのバカなクソガキに免じて、連れて行ってやってもいい。すっげえ不本意だけどな」


「っ! ありがとうございます!」


「ただし行くのは、木曜だ」


「えっ、今すぐじゃダメなんですか!?」


「だから、人手が足りないって言ってるだろ!金曜で学校も終わってそのまま夏休みに入る。その頃には、人も増えてきてるだろう。行くならそのあたりだ」


「そんな…」


「まさか、大人数でコウナンに乗り込む気なの?それこそ危なくない?」


プリンをプラスチックのスプーンで掬いながらアカネくんが首を傾げる。


「学校の番を増やすってだけだ。別に乗り込むのは少人数でもいい…というか、別に殴り合いをしに行くわけじゃない。〝話し合い〟をしに、」


「泰司さんが〝話し合い〟だけで済ませてこれるの?」


「さっきからなんでそんなに茶々入れてくんだテメェは。もういっぺん殴られてえのか?ああ?」

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