第75話

「大丈夫なわけねえだろ!足手まといはいらねえって言ってんだよ!」


「ですから!足手まといにはならないって言ってるじゃないですか!」


そこまで言い返して、ハッとする。


この手を使えば、いいじゃないか。あたしにはとっておきの、あの〝権利〟があるじゃないか。


正直、これを今、使うのは卑怯な気もするけれど、こういう時でもないと使うこともない。だから、ごめんなさい…ごめんなさい、泰司さん。


心の中で何度も謝り、あたしは顔を上げる。



「絶対、何を言われても、俺はオマエを連れては行かな、」


「泰司さん」


「だから連れて行かないって」


「あたしを連れて行ってください」


これは…、


「これは〝命令〟です」


「なっ!?」


その顔が、瞬時に歪む。何度か唇を動かした後、「ん、なもん!」泰司さんは立ち上がった。



「事態が事態なんだ!無効に決まってんだろ!!アホかテメェは!!」


「でっでもトップの命令は絶対って…!」


「あーあーあー聞こえねえ!全然聞こえなかったなァーあ!」


「ず、ずるいです!!絶対聞こえてたじゃないですか!」


「証拠がない!」


「そっそんな!」


「あーあー、聞こえねーなァーんにも聞こえねー!」


詰め寄るあたしに、泰司さんは耳を両手で塞ぎ改めてソファに座り直す。


「泰司さんっ」


まるで小学生がやりそうな行動をとった泰司さんに、なんだか泣きそうになった、その時だ。




「それはダメだよ、泰司さん。ルール違反」


「っあ…かね…!」


「アカネくんっ」


屋上から戻ってきたアカネくんが、さらっと部屋に入ってきていて、あたし達はハッと顔を上げた。


泰司さんは顔を引き攣らせて、「てっめえアカネェ」とアカネくんを怒った様子で見つめる。

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