第74話

「あたしも…連れて行ってください…」


「……おい、人の話聞いてたか」


「…あたしが、必ず……ミクさんを連れ戻します…」


「どうやって連れ戻すつもりだ、サクラダはなァ、」


泰司さんがイライラとした口調で言葉を続ける。



「実の親を刺し殺した男なんだぞ?」



「………え…」



あの人が……親を……?


一瞬言葉が詰まり、サァッと血の気が引く。けれども、あたしは取り乱さないよう気を取り直して、泰司さんと向き合った。


殺した、殺、コロ、サツ…頭をぐるぐるとその文字が回るけれど、それでもあたしは泰司さんにバレないように自分の手を抓って、痛みでその〝文字〟を紛らわす。



「そんなイカれたヤツからミクを連れ戻すのは容易じゃない。特に今は、人手が少ない。なんにせよ、穏便に済ませないといけないんだ」


「………わかりました」


「はぁ?何がわかったんだ、オマエに今出来ることなんて、」


「大丈夫ですよ、足手まといにならないようにします…」


声を遮り、あたしは笑う。

凛と背筋を伸ばし、それらしく見えるように、


「きっと、上手くいくはずです」


平静を装いつつ、綺麗に笑って見せた。

声もきっと、真っ直ぐ飛んだはずだ。


泰司さんは目を見開き、「オマエ…」と唇が微かに動く。


らしからぬ表情をしていたからだろう、泰司さんが訝しげに眉根を寄せた。



「妙なこと考えてねえだろうな」


「いえ、考えてませんっ!泰司さんはあたしを…どんな人間だとお思いですか…?」


「ビビりで臆病なオサゲ女」


「すっ、少し傷つきますが、そうですよ…。だ…だから、妙なこととか出来ないと思います……」


「じゃあ、連れて行く必要はないじゃねえか。足手まといはいらねえ」


「おっ、お願いします!」


「ダメだ」


「ぜ、絶対大丈夫ですからっ」

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