第71話

「サクラダシキ、という男を覚えてるか?」


それは、あのニシヨミの人たちがいた倉庫で、暴れていた、あの人。


気が狂ったように喜悦の声を上げて笑って、何もかもが闇に塗れた、あの人だ。


姿を思い出しただけでも、ぞっとする。


その名前を聞くだけで、全てを悟った気がした。



「ソイツが今、コウナンにいる。多分、手を引いたのは八神達だろう」


「……」


「サクラダはミクの旧友だ。どういった事情があるかはわからねえが、大方ソイツに何かを吹きこまれて向こう側についたんだと」


泰司さんはそこまで言って、瞼を伏せる。口はそのまま「そう、思っていたが」と、動き続けた。



「今はわからない」


「…え…?」



泰司さんの言葉に困惑する、あたしは思わず顔が引き攣った。


だって、普通に考えて、そうとしか考えられないのに、どうして、



「どうしてっ…」


「リュウ達に手を出したのはミクだからだ」


「え…?」


脳裏に、ミクさんやリュウくんの顔が思い浮かんだ。だってあまりに現実から、あたしが知っている現実から、かけ離れているから。



「……事情があったにせよ、手を出したことには変わらない。アイツがそう決めたんだ」


「…ん、っな、そんなっ!だって、ミクさんですよ!?あんなにっ、このっ、マツキタの人たちと、この学校のためにって…っ」


あたしを、ちゃんとしたトップにしようと何度も指導してくれた。


それってつまり、みんなのためだってことでしょう?


学校のためだってことでしょう?


突き放されたあたしを、みんなの所へ連れ戻してくれたミクさんが、


どうしてわざわざ、


「…あり…えません…」


裏切ったりするの…?

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