第70話

「それで…学校の留守番をあたしにしてほしいという…件なんですが…」


「今、人が少ねえからな、誰かしらここにいた方がいいだろ。特にオマエは頭だ、外での行動は控えた方がいい」


「はい…」


「浮かない顔すんな、気合い入れたんだろ?」


「! はいっ」


「それに今週末からは夏休みに入る…オマエが強制的に頭を張る期間も、その間に終わる」


「あ…そう、でしたね」


「まあ、その期間どうのこうのはまだ先の話として…とりあえず、今週は休みに入るまで、トップとして学校の奴らを維持しとけ」


「泰司さんは…どうされるんですか?」


「俺は…ちょっと外に出る。厄介事が重なってるからな」


ソファに深く座り直し、その赤髪を緩く触る泰司さん。


「厄介事…?」


そう、首を傾げたあたしに、泰司さんは少しだけ目を細めた。


そして、「いや…」と、少し躊躇ったように顔を逸らした後、意を決したようにあたしを見つめる。


泰司さんの強く刺すような黒目に、ぞくっとした。何を言われるんだろうって、背筋がヒヤリともした。


真っ直ぐとあたしを見る泰司さんの形の良い唇が、ゆっくりと、ゆっくりと、開く。




「ミクが、敵側についた」


「…………え?」


時が止まったような、気がした。


本当に驚いた時って、気の抜けた声しか出ないんだ。初めて知ったなって、そんなことを呑気に思う場面ではないはずなのに。


驚いて、驚き過ぎて、思わず「…え?」と再度、聞き返してしまう。


「どういう…こと…ですか…?」


「……」


零れるように、掠れた声が出てくる。


泰司さんは、あたしの反応がまるでわかっていたような顔をして言葉を続けた。

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