第68話

小舘さんの言った通り、有松北高校には変な人が多かった。


だからか、本当に毎日が楽しくて、俺は時折、自分が身を置いてる世界がどういったものだったのか、忘れてしまう時がある。


この学校で、水波に再会出来たときは、運命だとさえ思ったよ。水波は多分、そう思ってないだろうけど。


俺はずっと、水波をライバルだと思ってたから、本当に本当に嬉しかったんだ。


この学校に来てよかった、泰司さんや、翡翠さんたちに会えてよかった。


少しでも俺を受け入れてくれて、ありがとう。そう、いつかお礼がいいたいな。










『光になれたかは、やっぱり…正直わかりませんが』


ううん、トップ。


トップは十分、光になれたよ。


『アカネくん自身に、少し近づけたような気がします』



俺はね、俺自身を誰かに受け入れられることを、心から…心の底から望んでいたんだ。


家とか、見た目とか、そんなの全部抜きにして。



だから、こんなにも目から涙が溢れて止まらないんだよ。泣いたことなんてなかったのに。


そのせいかな。泣かなかったから、今まで溜めてたものが全部外に流れ出てきてるんだ。


さっきのやり取りは、すっごく些細な出来事かもしれないけど、俺にとっては大きくて。


この先、一生、忘れられないものになるんだろうなぁ。


一歩踏み出せた、あの時のような思い出に。



だってこんなに泣いてるんだもん。干からびちゃったらどうしよう。

……とか、さすがに本気で思わないけど。



黒く焦げた肌を今度は労わるように撫でてみせる。



小舘さん、ありがとう。俺さ、この学校に来て、本当によかったよ。


残りの数年間も、後悔のないように生きないと。


俺はいずれ、あの家に戻らないといけないから。



それまで、自由気ままに。


いつだって、みんなに、


トップに、


手を差し伸べてることのできる、


そんな本物のヒーローになれたらいいな。

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