第67話

「変なの多いって…俺がまるで変みたいに」


「何言ってんの、茜くんは変だよ~!」


そうさも当たり前のように言いながら、小舘さんはさらに笑う。

立て掛けたモップを取りに行く小舘さんの足を、少し引っ掛けたいと思った。


でも正直、そこまで清々しく言われてしまえば、こちらも否定しようとさえ思えなくなるな。きっと俺は変なヤツなんだ。認めよ。



「でも、なんでそんなに詳しいの?」


「ここの卒業生だったんだぁ、楽しかったよ」


「じゃあ、小舘さんも十分変なヤツなんだね」


「言うね。…でも、否定はしないかな。じゃなきゃ、君をここに受け入れてないよ」


「確かに」



納得したように頷けば小舘さんはまた笑う。本当によく笑う人だ。俺もこんな風に、素直に笑ってみたいな。



「……その学校、行って後悔しないかな」


「俺は楽しかったよ、…後悔はー…したことないかな」


小舘さんはウェーブのかかった茶髪を揺らしながら、懐かしむように遠くを見るような目をする。今日はお洒落用のメガネは掛けていないから、よく表情が見える。


「ふーん」


興味のないような返事をして、俺は、天井を見上げる。



ありまつ、有松北…高校。


そこに行って、俺は本当に後悔しないかな。


そこは、俺を受け入れてくれるかな。





家に帰ってから学校のことを親父に話し、「もう少し勉強したい」と、強くお願いした。


勿論いい顔はしなかったけど、珍しく強い意志を見せた俺に「勝手にしろ」という言葉を吐いて、最終的に行くことを許してくれた。行くことだけ、だけど。


いいんだ、それでも。


俺は、また一歩、外の世界に足を踏み出せたんだって、嬉しくなれたから。

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