第64話

「そうだ」


「ん?」


「あの、俺にそのキラキラ!教えてください!」


「えっ?!キラキラ?」


「あっ……、えと、お洒落?」


他人との会話に慣れていないせいで、俺は少々会話下手になっていた。


ここ二年、学校にあまり行っていなかったことを、少し後悔した。

顔があまり動かない自覚はあったから、なんとか身振り手振りで伝える。



「お洒落って……どういう…、」


「それから!この魔法も!」


「えっ!?そ、それって、髪の切り方を教えてってこと…?」


「そっ、そうです!」


「ええっ!?」


驚いた声を上げて、お兄さんは「そんなこと言われてもなぁ」と、至極困った顔をしていた。




「で、でも片柳さん…高校生でしょ?」


「いえ、正直言うとまだ中学です」


「えっ!?…でもさっき、アンケート…え!?」


「嘘ついてました」


「えぇ!?」


「だめですか!」


「だっ、だめって…そりゃあ…」



当たり前だよ、って続きそうなそうなその言葉を遮るように頭を下げる。


幸い、店には俺以外のお客さんも美容師さんも見当たらなかった。

小ささからして、個人でやっている美容室なのだろう、と勝手に決めつける。



「お願いします!」


「えぇっ……」


さっきから、その言葉ばかりのお兄さん。押しに弱そうだけど、その首をなかなか縦には振ってくれない。



「な、なんでそんな必死なの…?何か…事情でもあるの?」


「……俺、…人に、普通に、なじめるように、なりたいから」


「え…?」


「……」

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