第63話

「うち、こういう雑誌とかに載ってる読モの子たち…ああ、この子とか…あとこの男の子とか担当してたりするんだけど、」


「人体カット?」


「えっ!?…あ、えと……髪を切るんだけど…?」


少々反応に困ったような顔をして、お兄さんは俺を見た。ああ、そういうことか。



「いいですよ、暇だし」


「あ、ホント?よかったー」


そのまま軽い説明をされた後、お兄さんの働いているという美容室にやってきた。お洒落だけど、小さなお店だなぁ。


特にこだわりはなかった髪をお兄さんに整えられていくのを見ながら、こういうところ初めてきたなぁ、とぼんやり思う。



「髪色は、どうします?染められますか?」


「えっ、染めていいの?」


「はい、片柳さんが染めたいならー…、」


「じゃあ、染めたい。興味ある」


「じゃあ、ベージュとか、この辺の色どう?」


「すご、外国人みたい。かっこいい」


「気に入ってくれたなら、この色にする?」


「うん」


「片柳さん、顔小さいし、きっと似合うと思いますよ」



歯を見せて笑うその人。他人の屈託のない笑顔は初めて見たな。なんかこういう表情、好きかも。きっと自分は出来ないだろうけど。






カットやカラー全てが終わったあと、俺は鏡に釘付けになった。


「すっげー!別人!」


「そんなに喜んでもらえるとは…嬉しいなぁ」


笑いながら、カットクロスを叩いているその人に「魔法使いみたいですね!」なんて目をキラキラさせて言ったら、


「それは大袈裟だよ」


って、盛大に笑われた。


だって、本当にそう思ったんだ。それに、これなら、きっと、俺の家が〝あんなの〟だって…疑われることだって……。

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