第61話

そこから俺は、さして興味もなかった空手に熱を入れた。


水波伊吹になんで勝てなかったんだろうって、大して良くもない頭で考えて、身長が悪いせいかもって結論に至った時は毎日吐くほど牛乳を飲んで、大っ嫌いになった。


そのお陰かは知らないけど身長は伸びてくれたし、使える技も増えて、もはや俺は無敵だって思ったけど、



「判定、白の勝利!!」


やっぱりコイツには勝てないわけで。



身長だって俺の方が高くなったし、リーチもそれなりに長い。バネだってある。

だけど、コイツの綺麗な型や身のこなしに、俺は毎回見事に惨敗する。




「……ねえ、ねえねえねえ」


「……なに、さっきから」


「君ってなんでそんな強いの?いっつも何やってるの?ってか俺と勝負しない?あっちのホール空いてる場所あるって」


「やらないよ。…って、なにその顔」


「いや、せっかく俺が誘ってるのになって。…普通なら『わかりました行きます』って即答する場面だから…びっくりして…」


「びっくりするのはこっちなんだけど?凄い自信だね」



呆れたように言って、コイツは、水波は、持っていたタオルで冷えたペットボトルを包んでいた。

そのしぐさ一つ一つが妙に綺麗で、育ちがいいんだろうな、ってなんとなく思った。



「ねえ、水波伊吹は14歳だよね?中二?」


「……そう、だけど」


「俺も中二」


「……はあ」


「だから勝負しようよ!」


「全く意味がわからない」


引くような顔をして、水波は少しだけ俺と距離をとる。



「だって同い年で俺に勝ったやつ、初めてだから」


「だからって、試合外で勝負しようってのは変だと思う」


「そう?」


「そう」


「ふーん…」


「……」


「じゃあ試合形式にすればいいの?」


「……そういう問題でもない」

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