第58話

「なんだこれはっ!片柳!!」



無駄に声のでかい、目先にあることをなんでも言葉に出すような、子供のような頭をした男の体育教師。


「シールか!?どうなんだ!答えなさい!!!」


本当に声が大きくて、咄嗟に顰めっ面をすれば、「なんだその顔は……」と、教師もまた嫌な顔をして、俺の腕を更に引っ張った。



「見せなさい」


「っ、なにす、…離せ!」


「いいから見せるんだ!!」


破られるんじゃないかってぐらい、教師は制服を引っ張って、俺の背中や腕を確認した後、


拍子抜けするくらい、すんなり手を離した。


俺は苛々しながら、その教師の顔を見て、


「………片柳、職員室に来なさい」


ぞっとした。

人が人を軽蔑する目っていうのは、こんなにも冷たいものなのだと。



教師には、この〝模様〟のこと、それから家のこと、色々なことを聞かれたけれど、俺はただ黙って、時間が過ぎるのを待った。


その後、親父……に、いつもついている人が二人ほど来て、一人のお付きに俺は連れられて学校を後にした。


一人は、学校に残って教師と何かを話していた。


次の日、学校へ行くと、


まるで別世界だった。


俺が教室に着いた途端、静まり返るその空間。


歩く場所が自動的に空いて、まるで道を作られたようなその瞬間。


昨日まで仲良かったヤツらは愛想笑いを浮かべて、さっさと離れていった。


何もしていないのに、涙目になりながら「関わらないでください」って、お願いされたことだってある。


毎日毎日、恐怖と好奇心の入り混じった目が、俺の周りでぎょろぎょろと蠢く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る