第53話

少し腰をかがめて、泰司さんはあたしの腕を取る。


ぐいっ、と少し強引に引っ張って、あたしの腰を、足を、立たせてくれる。


よろっ、しながら立ち上がって、その顔を見上げた。






「すっ、すみません…」



「どうせ、オマエのことだ。受け入れたんだろ、コレ見て」



「えっ…?」



「普通は引くからな」



風が泰司さんの髪をさら、っと揺らす。


瞬間、左耳についた金色のピアスが、チカ、と光る。


あたしの腕を握る手についたゴツゴツとした指輪も、仄かに香る香水も、なんだか一気に違う世界へとあたしを誘った。






「……コイツはな」



泰司さんは横たわるアカネくんに、ちら、と目配せをして。



「基本、怖いもの知らずなんだよ。何でもアホみたいに挑むし、バカを平気でやれる。……だけど、」



「……」



「〝コレ〟を見られることは、何よりも恐れてた」



泰司さんの後を追い、横になってるアカネくんの肩を、背中を、見る。


〝刺青〟で縛られた、背中を。


決して逃げることの出来ない彼の前に敷かれたレール、


その黒く焦げた刻印が、それを指す。






「それを、どうせのコイツのことだから淡々とした調子で、平気そうに見せたんだろうけど、……内心、すっげえ怖がってただろうよ」





『もう多分、これを逃したら見せらんないと思うから』




アカネくんは、あの瞬間、どういう気持ちでこれを言ったのか。








「アイツらの中で、人に拒絶されることを怖えって、誰よりも怯えて過ごしてきたのは、コイツだ」



「………」



「そんなコイツを、いとも簡単に受け入れて…あまつさえコイツが一番欲しかった言葉でもくれてやったんだろ、オマエ」



「へっ…?」

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