第49話

開いた口が塞がらなくて、アカネくんは「大丈夫?」と言いながらまた顔を近づけてくる。





「あっ…あの!もう、だ、大丈夫なので!!その涙は、ひ、引っ込んだので!その、」



「どうしたの?トップ、今度はすっごい顔赤いよ」



「あっ、あの、あたし、こ、こういうのはっ…ひぁっ、」




肩を押して距離を離していたはずなのに、今度は瞼の近くを唇が掠めた。


あまりにびっくりして変な声が出てしまう。





「あれ…、驚かせた」



「ぅ、あっ、当たり前じゃない、ですか…!」



「…そっか、じゃあもっと、」



「…?」



「そっとやった方がいいね」



「!!」




首の後ろに手が回る。


腰が、段々とセメントに近づいていくのがわかる。


その動作が妙に自然で、


慣れていて、


あたしは最早どう抗えばいいのかさえわからなくなっていた。





「っ、あ、あのっ、」



「トップは首も細いんだね」



「っ、ぅ」



くすぐったさのあまり、歯を食いしばると、アカネくんは首を傾げる。




「弱いの?」



「そ、れは…っ」



そうなんですが、そういう問題ではなくっ…!



ひぃいいいっ、と肩を縮めても。



「こっ、この状況は…な、なななっ、なんですか…?!」



そう、勇気を振り絞って訊ねてみても。






「この状況…?」



いつもの顔で、いつもの口調でアカネくんは答える。



考えるように小首を傾げ、「状況……」と、再度呟き、あたしを地面に押し倒した。




押し、倒した。



やはり彼に聞いても、本来欲しい答えに辿り着ける気がしない。






「…ひっ!?」



地面に頭が当たって、悲鳴が同時に零れる。

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