第41話

あたしが何を考えているのか気付いたのか、アカネくんは「俺ね」と唐突にこんなことを口にした。




「人に何考えてんのかわからないってよく言われる」



「……あ、」



声を零したあたしに、「トップも思ってたでしょ」と、アカネくんは少々冗談めいた口調で、また少し俯いた。





「俺は自分が、喜怒哀楽、結構激しい方だって思ってるけど、あまり表情に出てないんだって。言われて知った…大分前にだけど」



「……」



「だから言動でどうにかなればいいかなって…結構ストレートに物は言うようにしてる」



「…そう、だったんですね」



「行動も直球。じゃないと、伝わないから」




少し寂しそうに、アカネくんは言う。


今までのアカネくんの行動、言動、それらを思い返しながら、合点のいく場面をいくつも見つけてしまう。






「表情に出ないのは、小さい頃、わざとそうしてたからだって、俺は思ってる」



「わざと…ですか?」



「うん、わざと。そうしなきゃいけない、環境にいたから」



「……」



「でも、そうしてる内に、感情とかそういうのが人とちょっとずれて、いつの間にか〝わざと〟が〝自然〟になってたんだ。気付かないうちに」




伏せられた瞼が、睫毛が、瞬きをする度に、どこか悲しそうに見える。


子供のころに、表情を押し殺さなきゃいけないだなんて、どんな環境だったというのだろう。




『―――あの情報屋も、金持ちのヤツらも、ヤクザの息子も』





「だから、この距離で、トップと一緒にいても、恥ずかしいなんて思わないんだと思う」




ああ、そういうことか。


なんだか、す、と腑に落ちた。


新島さんが言っていたことを、ここで思い出すなんて…、



あたしは心の片隅で彼を疑っていたのだろうか?



アカネくんが悪い人なんじゃないかって…はたまた、本当はヤクザの家っていうのは勘違いで、本当はただのお金持ちの息子さんとかって……。

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