第39話

「………」



口角を上げて、したり顔でこちらを見下げる里見を、翡翠はす、と見上げる。


と、そこで、ピルルルルルッと細い電子音が里見のポケットから聞こえた。



自分の携帯に連絡が入ったのか、里見がそちらに意識を向ける。



「………翡翠様。なんか今、晴一様が一時帰宅されたらし、……」



少し視線を逸らした、その一瞬で、





「里見」



翡翠は窓の縁に手をかけていた。




「またしばらくここ空ける、いつものように誤魔化しといて」



「あっ、ちょっ…!…携帯はいいんですか?!」



「もう、とった。充電もありがとう」



里見は自分のジャケットのポケットを探り、いつの間に、と片眉を下げ、再び窓の方へと目を向けた、


時には、既に翡翠の姿はそこにはなくて。



「忍者ですか、アナタは」



困ったように笑って、「途中で倒れても知らないですよーっだ」と、里見は今一度携帯を見た後、




「………悪魔のご機嫌取りにいくか」



先ほどとはまるで打って変わった雰囲気でそう呟いた。

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