第38話

――――クレオメの花言葉は、



秘密のひととき、というらしい。




だから、この時間は、


誰にもバレてはいけないし、


誰にも知られてはいけない。



あの子との約束、大切な時間。






『ここにいることは、ふたりのひみつ』







あの時間は、秘密という言葉で今も守られてる。


思い出の中に。記憶の中に。
























「翡翠様~お食事で~すよ………っと、ん?」



里見が粥を持って戻ってきた頃、翡翠はベッドの端の方で横になっていた。



「ああ、寝てる。……制服脱いでくださいって言ったのにぃ」



全く、と言いたげな顔をして、里見は皿をテーブルに置き、掛け布団を翡翠の身体に掛けてあげた。


と、そこで、瞼を開け、翡翠は横になったまま里見を見上げる。





「………一瞬、寝てた」



「いいですけど、制服は脱いでくださいよ~?」



「わかってる」



「本当ですかぁ?」



「………」



「どうかされましたか?」



「……なんでもない」



目を逸らし、身体を起こす。


そんな翡翠をじ、と見た後、似合わないメガネを里見はわざとらしく上げる。



「翡翠様って……」



「……?」



「起き上がる時でさえ、なんっっっでそんなに優雅なんですか!!!?」



「お前はなんでこんな時でさえアホなことが言えるんだよ」



「だって翡翠様ここのところ、ずっと物憂げな表情しかしていませんよ?こんな感じに」



「そんな顔、俺はしてない」



無駄に格好つけた顔をして前髪を払っている里見を、翡翠は即座に否定する。断じてそんな顔はしていない。




「最近まで楽しそうな顔でご帰宅されていたのに…ああっ、あの可愛らしい翡翠様はいずこに!」



「気のせいだろ、俺がそんな顔…、」



「してましたよ?無意識でしょうけど。……学校、楽しいんだなぁって、思ってました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る