第37話

「……大丈夫ですよ。今、この屋敷には、翡翠様以外の人間は、掃除専用の使用人くらいしかおりません」



「……帰ってきたら、俺は出る」



「じゃあ、それまでに体調を復活させませんとね」




にっこり微笑んで、里見は部屋から出て行こうとしたところで、


「あ、そうだ」と立ち止まった。



「ちゃんと、制服は脱いでから横になってくださいね。皺になるので」



里見がいなくなり、一気に静かになる室内。



本当、どれだけ騒がしいのだあの男は。


制服は脱げと言われたけれど……、このまま素直に脱ぐのも癪に障る。


せっかく着たのに、まるで里見に言い負かされた感じがして、嫌だと思った。



それにもう、身体が限界だ。


重い頭に、鈍い痛みの走る身体に耐え切れず、そのまま横になる。


どうせ、すぐにここから出るんだ。制服は後からでもいいだろう。






ふと、瞼を閉じながら、翡翠は少し前のことを思い出した。







『クレオメの花言葉を知ってるか?』




その言葉を皮切りに、



そのうち、深い記憶の底へと辿り着く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る