第36話
「っ、違うなら違うって言え!俺はそういうの知らねえんだ」
「え、どうしたんですか?怒ってるんですか…?」
「当たり前だ、こっちはいきなりバカにされて訳が……」
イライラとしながら顔を上げる。
そこには、両頬を押さえながら目をキラキラさせて嬉しそうにしている里見がいて、怒るとこの男は逆効果だということを思い出した翡翠は、本当に悟りを開きそうになった。
「…もういい」
「どうされました?」
「……なんか疲れた…」
諦めてベッドに腰を下ろした翡翠を見て、里見は「そんなぁ」と不服そうな声を上げつつも、口元はしっかりと微笑んでいた。
それをチラ、と目で確認して、翡翠は小さく舌打ちをする。里見はこういう男である。
昔から食えないタイプの人間だ。どこまでが冗談で、どこからが本心か、全くもってわからない。
実年齢も知らないし、それが本名なのかさえもわからない。
その赤っぽい黒髪も、真面目を気取った似合わないメガネも、見るからに胡散臭さの溢れ出る里見は、翡翠とは大分長い付き合いになる。
「ではでは、水とタオル、ここに置いておきます。わたくし、お食事をとって参りますので」
「……別に、いらない」
「粥でもいいので、召しあがってください」
「……」
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