第19話

例えるなら、〝サクラ〟のような、


散ったらもう、元には戻らないような、



儚い、コエ。






「〝アレ〟は、」



喋るな、



「三國のトモダチ?」



話すな、



「ねえ、言ったよね?もしも――――――、」




俺を……、見るな。






「違うって言ってんだろっ!!!!!」




喉が裂けるほど大きな声で叫んで、遮る。



舌打ちをして、足を踏み出す。



違和感なく、は無理だ。




きっと、声の主、―――シキは気付いてる。



でも、試してる。



俺が、本当に〝裏切った〟かどうかを見てる。




俺が歩いて行くその先に、乱闘中のアイツらがいる。


シキが、黒髪の奥からこちらの様子を気持ちが悪いくらいにじーっと見つめている。


目の下のクマが、それを更に薄気味悪いものへと変化させる。



手のひらにあるナイフを、折り畳んだり、出したり、を繰り返しながら、


その光るナイフが、俺の心臓をドッドッド、と早くさせた。


顔色がすっかり青くなった俺を見ながら、シキが「大丈夫?」と呑気に首を傾げている。




嫌いだ、俺はナイフが。


お前が持つ、ナイフが。



吐きそうになりながら、俺は左耳に触れた。



たくさんついたピアスが、ひやりとする。






『大丈夫ですよ』



いつしか聞いた、アイツの声が俺の心臓を落ち着かせた。


ばっかみてェ、こんな時に。


フン、と鼻で笑ってやる。







「早くしてね」



似合わない笑顔を作りながら、シキは普通の声で続けた。


トス、と床にナイフを刺しながら「おーい」と、シキが今し方アイツらと乱闘していた男共に声をかける。

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