第13話
その後、他愛のない話をして、電話を切る。
切った後、父の言葉を素直に喜べない自分がいて、
親不孝者だと、額を叩いた。
父は、あたし達のために一生懸命に働いて、あたし達のためを思って、前の生活を取り戻そうとしてくれているのだ。
だから、我が儘を言ってはいけない。
いけない、けど………、
「……っ」
ぎゅ、と瞼を閉じて、携帯を握り締める。
涙が滲み出そうになったけど、頬も叩いてそれを止めた。
伊吹はまだ帰ってきてないだろうけど、じっとしていられないので、外に出る。
「!、っあ…」
ドアを開けて、駆け出そうとした先にトラくんがいた。
今し方帰宅したのか、気だるそうに肩にかけた鞄が軽くずれ落ちる。
きっと勢いよく出てきたあたしに、驚いたのだろうと思う。
「オサゲ…ちゃん?」
「トラくんっ……えと…、おかえりなさい」
「そんなに慌てて、どうしたの…?」
「…その、お買い物に行こうかと…思いまして…」
「買い物…?」
「喉が渇いたんですけど……飲み物なくなったので…」
首を傾げる彼に、あたしは軽く笑って、「では…」とその隣を通り過ぎる、
「待って」
「っ!」
ことが出来ずに。
腕を掴まれて、思わず振り返る。
「どうしたの?」
「あ、」
「大丈夫?」
少し顔を上げると、トラくんが少し真面目な口調で訊ねてくる。
「…何がですか?」
「なんか変だよ、オサゲちゃん」
「なんでもないですよ?」
笑顔でその顔を見上げる。
トラくんはそんなあたしを見て、「そう、ならいいんだけど」と手を離す、
「……とか言わないよ」
と、思ったけれど。
「!」
「泣きそうな顔して、なんでもないだなんて…よく言うよね」
にっこり笑って、トラくんはあたしの腕を引っ張り、向き合うように身体を動かす。
「な、なんで…!」
「そりゃわかるよ。どんな奴らよりも、オサゲちゃんと長くいるのにさ。…まあ、伊吹くんには負けるけど」
「それも…そうですね」
「はは…」と笑うあたしに、トラくんは背中を屈めて視線を合わせる。
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