第12話

室内に響き渡る着信音。咄嗟にそれを取り、ボタンを押す。




「もしもし……お父さん?……はい、お久しぶりです。どうしたんですか?」



その日、寮に帰り着いてしばらくした後、父から連絡があった。




≪今、伊吹はいるか?≫



「今は…いませんけど…」




どうしたのだろうか、日も落ちていない頃に父から連絡がくるなんて珍しい。


伊吹もまだ寮には帰ってきていなくて、あたしは今、自室で制服を脱いで私服になろうとしていた所だった。







≪実はな、小宵…父さん……≫



「はい…」




いつになく真面目な声は、『父さん、倒産しちまった』と、くだらないダジャレを聞かされた、あの時を思い出させる。


まさか、今回も……、なんて思ったけれど、あれほどの衝撃はきっと越えないだろう……、



≪会社を元に戻せるかも知れないんだ≫



と思ったけど、その予想を遥かに越えて、あたしは一瞬、言葉に詰まった。




「おっ、……おめでとうございます…!!!!」



≪ああ、ありがとう…!!実はな、とある会社の社長さんが子会社としてウチを復活させたいと……あと少しで話がまとまりそうで…なんだか夢のようだよ…!!≫



「そうなんですか!?それは夢のようですね!伊吹にも伝えておきます!!」



≪ああ!!でもまだ確定したわけじゃないから…、はっきりと言えないけど…でも嬉しくて、つい報告したくなったんだ!!≫



嬉しそうな顔で報告している父の姿が目に浮かぶ。


父は思ったことがすぐ顔に出るタイプの人間だから、すぐ想像出来る。


あたしの性格は、きっと父似だ。


声も喜々と跳ねて、相当嬉しかったのだろうと思い、思わず顔が綻んだ。





「本当におめでとうございます!!お祝いですね!」



≪このまま上手くいけば、また三人で一緒に暮らせるな!≫



「はい!そうですね!」



一緒に、暮らせる。



勢いよく返事をした後、次の瞬間、聞こえた声に思わず固まった。




≪学校もまた元に戻して、二人が過ごし易い環境を作ってあげるから…もう少し待っててくれるか…?≫



申し訳なさそうな父の声。


その言葉に、その声に、あたしは何も言えなくなる。



そうか……、一緒に暮らすとはそういうことになるのか…。



〝学校もまた元に戻して〟




「……、」



≪小宵?どうした?≫



「…っあ、いえ…、大丈夫ですよ!心配しないでください…!こちらの生活もとっても楽しいですし……お話、上手くいくと良いですね」



≪…ああ。…あ、そうだ!今度一緒に食事にでも行こう。墓参りにも。母さんにも報告したいしな≫



「はい、そうですね!きっと喜んでくれると思います…!」

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