第8話

「どうぞ、飲んでみてください。」


「うん。ありがとう。」


暖かいぬくもりに満ちたカフェ。ここで飲むお茶一杯が少女の凍りついた体と心を柔らかくしてくれるようだった。



「…特別な香りだね。」


温もりに満ちたティーカップを両手でぎゅっと握りながら少女が言った。


「そうですよね?カモミールティーです。 心を楽にすることで知られています。」


少年の答えに、ティーカップを見下ろしながら小さな笑みを浮かべる。



「···わざわざ選んでくれたんだ‥‥」


上気した目で少年を見つめ、少女は言った。


「え?ち、違います。このカフェはカモミールティーが有名だそうで..」


予期せぬ返事に少年は戸惑い、言葉を続けた。



「でも、ここはホットチョコやカフェラテが有名だって?」


右往左往する少年を眺めながら反問する少女。



「あ、それは…」


適当な答えを見つけられなかったのか、やがて少年の声が小さくなった。恥ずかしさに顔は赤くなっていく。


「フフッ···冗談だわ。 気にしないで。」


カップを置きながら少女は言った。


「はい…」


「そういえば、君は何も飲まないの?」


「あ、私は大丈夫です。」


「...大丈夫だなんて、一緒に飲みたいわ。何か飲みたいものある?」


少女が席を立ちながら尋ねた。



「いいえ。 本当に大丈夫ですから心配しなくても..」


「この子は、、私がすまないと思うだから。お返しだから気軽に注文してもいいわ。」


「それ..じゃ...」


「好きなお茶とかある?」


「私もカモミールティーで..」


顔を赤らめて答える少年。自分と同じお茶を飲むことに驚いた少女だったが、その意味を察したのかにっこり笑ってお茶を注文した。



「ーご注文のカモミールティーできました!」


「はい、ありがとうございます。」


少年の前に茶碗が下ろされた。



「さあ、一緒に飲みましょう。」


「はい、ありがたくいただきます。」


同じカップ。同じお茶を持って笑いながら飲む2人だ。降り積もる雪を背景しに、温かいお茶の温もりが二人の体と心を近づけてくれた。


...


「あの…」


「うん?どうかした?」


「姉さんって、呼んでもいいですか?」


「あ、そうだ! まだ挨拶もちゃんとしてないわ。

いくつなの?」


「15歳です。」


「15?いいな。(笑) 」


少女が笑いながら言った。


「じゃあ、やはり..」


「私は17。気楽に "雪乃" ゆきのと呼んでね。」


雪乃ゆきのさん、、」


「2歳の差しかないじゃない? "姉さん"って呼んでもいいわ。」


「じゃあ、雪乃ゆきの姉さん。」


「ふふっ、嬉しいね。 じゃあ、少年くんはなに?」


「スオウ、です。」


「スオウ?いい名前だわ。さっきは本当にありがとう。」


「いいえ。 ところで姉さん、聞きたいことがありますが、いいでしょうか。」


「はい、言ってごらん?」


「姉さんを見た時、本当に驚いたんですよ。どうしてそうしたのか聞いてもいいですか?」



少年スオウの質問に雪乃ゆきのの表情がしばらく暗くなった。

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