第3話

「ありがとうございましたー!」

店員の挨拶を後にしてコンビニを出る二人。



「どう?美味しい?」

女性が尋ねた。



「はい。 こんな味は初めてです。」


「ふふっ。今回新しく出たハードアイスクリームなんだけど、牛乳とバニラが調和して人気があるらしいよ。 気に入ってくれてよかった!」


同じように口にハードをくわえていた女性がにっこり笑って少年に言った。


「あの。。さっきはありがとうございました 。」


「まぁ、やるべきことをしただけよ?」


照れくさそうに顔を赤らめた少年が可愛いという微笑みを浮かべて女が答えた。


先ほどの騒乱があった遊び場を通り続けて歩いていると、いつの間にか町の河川の遊歩道を歩いていくことに気づいた二人。 遊歩道の脇に高くそびえる橋が夕焼けの光を浴びて輝いていた。


「どうして僕を助けてくれたんですか?」


「ただ、昔のことが思い出したの。」と女性は笑いながら答えた。


「さっき綾野が空に飛ばしたこと、本当凄いでした。どうやってしたんですか?」


「綾野…? あ、あの子たちの事ね。 何でもないよ。」

少年の質問に照れくさそうに答える彼女。


「もしかして姉さんは、魔法使いですか?」


「‥‥!」


続く質問に大きく驚く女性。




「ま…魔法使い?うん···そうじゃないんだけど..」

手で口を覆って答えを濁す。


「さぁ? 今日の事は秘密にしてくれる?」


恥ずかしそうに遊歩道の床を見下ろしながら頼む女性。


「…はい、分かりました。 姉さんの願いなら。」


女の反応に戸惑ったが、すぐにその理由を察したようにうなずいて答えた。



「ありがとう。お礼にプレゼントを一つあげるね。 ちょっと眼鏡貸してくれる?」


女はほっとしたように笑って手を差し出した。



「あ、はい。」


少年は眼鏡を外し、彼女の手に渡した。



「……ふむ……」


丸い縁の眼鏡をちらりと見ながらつぶやく女。




「さっきの子たちが君を殴りすぎたみたい。 レンズがぐちゃぐちゃになったねか。」


「え?どうしよう…そのまま使います。」


「いやいや、そうなくてもいいは。そういえば、まだ君の名前も知らないね。 お名前は何?」


「重幸です。」と少年は答えた。




「そうか、重幸? ちょっと私の方を見てくれる?」


「はい?」


… やがて両耳を覆った温かい手に引かれて女を見上げるようになった重幸。




「さあ、重幸? 動かないでちょうだい?」


重幸の両耳を包んだ状態で目を見合わせ、女は言った。




視力が良くなかったにもかかわらず、至近距離で見る彼女の姿はあまりにも美しかったことを重幸は感じることができた。 真っ白な肌、自分を見つめ続ける茶色い瞳、そして爽やかに吹いてくる風に揺れる金色の髪の毛は夕焼けの光を受けてさらに美しく輝いていた。彼女の姿をじっと見ていると、少年の胸はなんとなく熱くなっていった。




「さあ、できた! もう眼鏡がなくても大丈夫だよ。」

少年から顔を離し、笑って女は言った。


「あら、重幸? なんか顔が熱そうだけど..大丈夫?」


「え?あ…はい!大丈夫です!」


びっくりしながら答える少年。



「……ふふっ。よかった。 じゃ、落ち着いて前の方を一度見てみる?」


少年が恥ずかしがる理由に気づいたのか、女性はじっと笑って指で前の方を指差した。



「はい!」


女の言う通り前を見上げる少年。




「うあぁ、前が…···前が見えます! 眼鏡もいないのに!」


「だよね?じゃあ、あっちも…キャッー?」


反対側を指す女の言葉が終わる前に、重幸が前に近づいてきた。




「重幸?あの···近すぎるけど…」


恥ずかしそうに一方に顔を向けながら話す女。




「...!す、すみません!姉さんは裸眼で見たらどうか気になって…!」


緊張のあまりどもりながら話す少年。



「…フフッ!」


その行動がかわいかったのか、女はにっこり笑って重幸を見た。


「すみません。 ご迷惑を…」


「..雪乃さ。」


「えっ?」


「ゆきの。私の名前だよ。 気楽に雪乃と呼んでね。」


「あ、はい!雪乃‥さん。」


「へへ。嬉しいな。 じゃ、またね、重幸!」



黄昏の奇跡ーそれは後日、重幸がこの日を回想して付けた名前だ。


黄昏の奇跡をプレゼントしてくれた少女、雪乃は笑いながら重幸と別れた。

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