第9話 旅立ちの日
直樹は自分の選んだ道を親友たちに伝えた翌朝、少しだけ胸の中が軽くなっていることを感じた。医者になるために、自分は高校を早めに辞める。そして予備校で医学部を目指す。それが彼の決断だった。
しかし、その日は高校生として過ごす最後の日だった。校門をくぐりながら、何気ない日常がこれから大きく変わるのだと実感する。
「今日で、最後か…。」
彼は懐かしさと少しの寂しさを感じながら、教室に向かって歩いていた。教室に着くと、陽菜と拓海がすでに席についており、彼の姿を見るといつも通り笑顔を向けてくれた。
「直樹!おはよう!今日は特別な日だから、しっかり楽しもうね。」
陽菜がいつもと変わらない明るい声で言い、拓海も軽く手を挙げて応えた。
「おう、今日は直樹の卒業式みたいなもんだからな。忘れられない一日にしてやるよ。」
二人の言葉に、直樹は微笑み返しながら席に着いた。授業が始まると、普段通りのクラスの賑やかさに包まれた。彼は自分の机の感触や教室の匂い、窓から差し込む光までもが、どれだけ自分にとって大切なものだったかを改めて実感した。
昼休み、クラスメイトたちが直樹のために小さなサプライズを用意していた。黒板には「直樹、頑張れ!」と書かれ、机には彼宛てのメッセージカードが置かれていた。
「直樹、本当に医者になるんだな。すごいよ、俺たちも応援してるからな!」
「直樹、頑張って!でも、たまには顔を出してね!」
クラスメイトたちの温かい言葉に、直樹は目頭が熱くなった。自分の選んだ道に後悔はないが、この場所での思い出は彼にとってかけがえのない宝物だ。
「ありがとう、みんな。本当に嬉しいよ。」
午後の授業が終わり、最後のホームルームの時間がやってきた。担任の先生が黒板の前に立ち、クラス全体を見渡した。
「直樹、今日が最後の日だな。君が医者を目指してこれから進む道は決して平坦ではないだろう。しかし、君ならきっと乗り越えられる。私たちは君を誇りに思うよ。」
先生の言葉に、直樹は深く頭を下げた。
「先生、ありがとうございます。皆さんのおかげで、僕は自分の夢に向かって進む勇気を持てました。」
放課後、校門を出る前に直樹は最後に陽菜と拓海と一緒に過ごす時間を大切にした。いつもとは違う、少し特別な雰囲気が漂っていた。
「直樹、これから大変だと思うけど、絶対負けないでね!」
陽菜は少し寂しげな表情を浮かべながらも、明るく励ました。
「そうだな、お前ならできるさ。もし困ったことがあったら、すぐに連絡してこいよ。」
拓海も、直樹に力強い言葉をかけた。
「二人とも、ありがとう。本当に感謝してる。これからも、よろしくな。」
その日の帰り道、直樹はふと足を止めて振り返った。学校の校舎が夕日に照らされ、まるで新しい旅立ちを祝福してくれているようだった。
「これが、俺の選んだ道だ。」
直樹はしっかりと前を向き、次の一歩を踏み出した。医者になるための厳しい道が待っているが、彼には支えてくれる仲間がいる。そして、誰かを救いたいという強い信念もあった。
これからの未来がどんな困難であっても、彼は決して歩みを止めないだろう。
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