第8話 選ばれた道

直樹は、医者としての使命感を再確認した夜のことを思い出しながら、いつものように学校に向かっていた。頭の中には、自分の進むべき未来がはっきりと見えてきていたが、それと同時に、高校生としての残された時間がどんどん少なくなっていくことに気づいていた。


「医者になるためには、もっと本格的に勉強しなきゃいけない。でも、今のまま高校生活を続けながら、それができるのだろうか?」


彼は迷いを抱えながらも、校門をくぐり抜けた。教室に入ると、陽菜と拓海がすでに席についていた。陽菜が直樹に気づき、明るい声で声をかけてきた。


「直樹、おはよう!昨日のイベント、お疲れさま!本当にリーダーとしてよくやってくれたよね。みんな感謝してたよ。」


「おはよう、陽菜。ありがとう。みんなのおかげで無事に終わったよ。」


直樹は笑顔で返したが、心の中ではまだ葛藤が続いていた。拓海もそれに気づいたのか、少し真剣な顔で問いかけた。


「直樹、なんか考え事してるみたいだけど、大丈夫か?昨日の出来事、まだ引きずってるのか?」


「いや…ただ、少し将来のことを考えていただけだよ。」


そう言いながら、直樹はふと窓の外を見つめた。自分が医者になるためには、今すぐにでも具体的な行動を起こさなければならない。しかし、それを選ぶということは、高校生としての日々を諦めることを意味していた。


昼休みになり、直樹は一人で校舎裏に足を運んだ。そこは、昔から考え事をするときによく来る場所だった。風が心地よく吹き抜ける中、彼はこれからの自分の選択についてじっくりと考えた。


「俺が本当に医者になるために、今できることは何だろう?」


直樹は、医師になるための道筋を頭の中で整理し始めた。医学部への進学、そしてそのための準備…。その瞬間、彼は一つの決断にたどり着いた。


「やっぱり、もっと専門的な勉強を始めるしかない。」


彼はその場でスマホを取り出し、両親にメールを送った。医者になるための道について、もっと真剣に話し合いたいと伝える内容だった。それは、高校生活を少し早めに終わらせる覚悟をするための第一歩だった。


家に帰ると、リビングには両親が待っていた。直樹は緊張しながらも、これまで感じていた葛藤や、自分の決意について正直に話した。


「僕、医者になるために、もっと早く行動しなきゃいけないと思うんだ。今のままじゃ、間に合わない気がして…。だから、もしかしたら、高校を早めに辞めて、医学部の予備校に通いたい。」


父親は少し驚いた様子だったが、直樹の真剣な表情を見て、静かにうなずいた。


「直樹、お前が本気で医者を目指すなら、俺たちも応援するよ。ただ、それが本当にお前の望む未来なのか、しっかりと考えるんだぞ。」


母親も心配そうに口を開いた。


「直樹、高校生としての時間も大切よ。友達との思い出だって、後で振り返るとかけがえのないものになるはずよ。本当に後悔しない選択をしてね。」


直樹はその言葉を胸に刻みながらも、自分の決意が揺らぐことはなかった。


「ありがとう、父さん、母さん。僕は、必ず医者になって、誰かを救いたいんだ。」


その晩、直樹は改めて自分の未来を見据えた。高校生活を続けるか、医者になるために今すぐ動き出すか。その決断は、彼の未来を大きく左右するものだった。


翌日、直樹は学校に行き、親友の陽菜と拓海に自分の決意を打ち明けた。陽菜は最初、驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で応援の言葉をかけた。


「直樹が本気で医者を目指すなら、私も応援するよ!でも、もし本当に辞めることになったら、ちゃんとお別れはしてよね!」


拓海も静かにうなずきながら、直樹の肩を軽く叩いた。


「お前なら、きっとどんな道でも成功するさ。でも、たまには遊びに戻ってこいよな。」


二人の励ましを受けた直樹は、これで最後だと決意を固めた。そして、再び医者の道に向かって歩み出す日が近づいていた。

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