第14話「君がいるから、強くなれる」

 アカデミー・ルミエールの大講堂は、朝日を受けて輝く水晶のシャンデリアの下、学生たちの熱気に包まれていた。壁一面に広がる魔法の壁画が、まるで生きているかのように動き、色とりどりの光を放っている。


 プロフェッサー・アメリー・ルーンクラフトが壇上に立ち、声高らかに告げた。


「今年の魔法大会の課題を発表します。今回は、『失われた魔法の再現』です。古代の失われた魔法を研究し、その一部でもいいので再現してみせてください」


 講堂内がざわめいた。エリオット(エロイーズ)とルーシー(ルシアン)は、互いに目を見合わせた。


「失われた魔法か……」


 エリオットの呟きに、ルーシーが小さく頷いた。


「これは、私たちにとってチャンスかもしれないわね」


 二人の頭に、同じ考えが浮かんでいた。自分たちの変身の呪いを解く鍵が、この課題にあるかもしれない。


 講堂を出た後、二人はクロエと合流した。


「ねえ、二人とも。この課題、あの本のことを思い出さない?」


 クロエの言葉に、エリオットとルーシーは顔を見合わせた。彼女が言っているのは、以前図書館で見つけた古代魔法の本のことだ。


「そうか! あの本なら、何か手がかりがあるかもしれない」


 エリオットの声に、興奮が滲んでいた。


 三人は図書館へ向かった。しかし、その本があったはずの場所には、何もなかった。


「おかしいわ。確かにここにあったはず……」


 ルーシーが困惑した表情で言う。


「誰かが持ち出したのかな?」


 クロエの言葉に、エリオットは眉をひそめた。


「まさか……」


 その時、背後から声がした。


「これを探してるのかい?」


 振り向くと、そこにはノエルが立っていた。彼の手には、あの古代魔法の本があった。


「ノエル! どうしてその本を……」


 エリオットの声には、警戒心が滲んでいた。


「落ち着けよ。別に悪いことをしようってわけじゃない」


 ノエルは、意外にも穏やかな表情で言った。


「実は、僕もこの課題に興味があってね。そして、君たちの秘密を知った今、力になれるんじゃないかと思ったんだ」


 エリオットたちは、驚きの表情を浮かべた。


「ノエル……本当に?」


 ルーシーの問いかけに、ノエルは真剣な表情で頷いた。


「ああ。僕も、君たちと一緒に失われた魔法の謎を解きたい。そして……できれば、君たちの呪いを解く手がかりも見つけたいんだ」


 四人は顔を見合わせ、小さく頷いた。そして、図書館の奥深くにある研究室へと向かった。ここなら他に人もいない。


 研究室では、古代の魔法陣が床に描かれ、壁には不思議な文様が刻まれていた。四人は本を開き、研究を始めた。


 時間が経つにつれ、彼らは古代の魔法についての理解を深めていった。そして、ある日のこと。


「みんな、これを見てくれ!」


 ノエルの声に、三人が集まった。


「ここに、『魂の共鳴』という魔法のことが書いてある。二つの魂が完全に調和すると、驚異的な力を発揮するらしい」


 エリオットとルーシーは、思わず顔を見合わせた。


「もしかしたら、これが私たちの呪いを解く鍵かもしれない」


 ルーシーの言葉に、エリオットは強く頷いた。


「ああ、試してみる価値はある」


 四人は、魔法陣の中心に立った。エリオットとルーシーが向かい合い、クロエとノエルがその周りを取り囲む。


「準備はいい?」


 エリオットの問いかけに、全員が頷いた。


 魔法が始まった。エリオットの風とルーシーの雷が交わり、クロエの霧とノエルの闇がそれを包み込む。四つの魔法が、美しい調和を奏で始めた。


 その時、エリオットとルーシーの体が光り始めた。二人の姿が、ゆっくりと本来の姿に戻っていく。


「これは……」


 エロイーズの声が、驚きに満ちていた。


「僕たちの変身魔法が……解けた?」


 ルシアンの言葉に、クロエが驚きの声を上げた。しかし、最も衝撃を受けていたのはノエルだった。


「な、何だって!?」


 ノエルは目を見開いて叫んだ。


「エリオットが……女の子で、ルーシーが男の子……!?」


 ノエルは呆然と立ち尽くし、エロイーズとルシアンを交互に見つめた。


「ああ、そうだ」


 エロイーズが少し申し訳なさそうに言った。


「これが私たちの本当の姿だよ、ノエル」


「僕たちの秘密……これが真相なんだ」


 ルシアンも付け加えた。


 ノエルは口をパクパクさせたが、うまく言葉が出てこなかった。


「ノエル、大丈夫?」


 クロエが心配そうに尋ねた。


「ああ、大丈夫……君たちに何か秘密があることは知ってたけど……想像以上の秘密だったから」


 ノエルは深呼吸をして、少し落ち着きを取り戻した。


「でも、これで君たちの行動の謎が解けた気がするよ」


 エロイーズとルシアンは互いに視線を交わし、微笑んだ。


「まさか……こんなに簡単に元の姿に戻れるなんて」


 エロイーズが自分の体を見つめながら言った。


「でも、これは一時的なものかもしれない」


 クロエが慎重に指摘した。


「それにエリオットの呪いそのものが解けたわけじゃないわ」


「そうだな」


 ノエルもようやく落ち着きを取り戻して頷いた。


「でも、これは大きな一歩だ。この魔法をさらに研究すれば、本当の解決策に近づけるかもしれない」


 エロイーズとルシアンは顔を見合わせ、微笑んだ。


「君がいるから、強くなれたんだ」


「私も同じよ。あなたがいたから、ここまで来られた」


 二人は抱き合い、クロエとノエルもその喜びを分かち合った。ノエルは最初の驚きを乗り越え、友人たちの幸せそうな様子に心を打たれた様子だった。


 この日、彼らは失われた魔法を再現し、新たな可能性を見出しただけでなく、真の友情と愛の力を、身をもって体験したのだった。そして、ノエルにとっては、友人たちをより深く理解する機会となった。しかし、彼らの前には、まだ呪いを完全に解く課題が残されていた。


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