第13話「あなたの全てを、愛しているわ」

 アカデミー・ルミエールの秘密の練習場。月明かりが、古い石壁に刻まれた魔法陣を照らし出している。エリオット(エロイーズ)とルーシー(ルシアン)は、向かい合って立っていた。二人の周りには、風と雷の魔法が渦巻いている。


「エリオット、私……もう我慢できないの」


 ルーシーの声は、感情に震えていた。彼女の琥珀色の瞳には、決意の色が宿っている。


「ルーシー、俺も同じだ。もう、隠し立てはやめよう」


 エリオットの言葉に、ルーシーは大きく頷いた。二人は同時に、常に発動している変身魔法を解いた。


 エリオットの短い金髪が伸び、豊かな胸が露わになる。一方、ルーシーの長い赤褐色の髪は短くなり、体つきもいつもよりやや男性的になっていく。月光の下、二人の本当の姿が明らかになった瞬間だった。


「エロイーズ……」


「ルシアン……」


 二人は、互いの本当の名前を呼び合った。その声には、これまでにない親密さが込められていた。


「本当の私を、受け入れてくれるの?」


 エロイーズの問いかけに、ルシアンは真剣な眼差しで応えた。


「もちろんだ。僕は君のすべてを愛している。エリオットとしての君も、エロイーズとしての君も」


 エロイーズの目に涙が浮かんだ。


「私も同じよ、ルシアン。ルーシーとしてのあなたも、本当のあなたも、大切なの」


 二人は、ゆっくりと歩み寄り、抱き合った。その瞬間、練習場全体が柔らかな光に包まれた。壁に刻まれた魔法陣が輝き、二人の魔力が共鳴するかのように、風と雷の魔法が美しく交わる。


「エロイーズ、君は僕の人生を変えてくれた。君と出会えて、本当に良かった」


 ルシアンの言葉に、エロイーズは柔らかく微笑んだ。


「あなたこそ、私の支えよ、ルシアン。あなたがいるから、私は強くなれるの」


 二人は再び見つめ合い、そっと唇を重ねた。その瞬間、練習場の魔法陣が一斉に明滅し、二人を祝福するかのような光の雨が降り注いだ。


「ルシアン、私たちの未来はどうなるのかしら」


 エロイーズの声には、不安と期待が混じっていた。


「わからないさ。でも、一緒なら乗り越えられる。僕たちには、お互いがいるんだから」


 ルシアンの言葉に、エロイーズは強く頷いた。


「そうね。私たちの愛は、どんな障害も越えられるわ」


 二人は再び抱き合い、月明かりの中で静かに佇んでいた。その姿は、まるで永遠に続く愛の誓いを象徴しているかのようだった。


 しかし、その幸せな瞬間も長くは続かなかった。突如、練習場の扉が開く音がした。


「やっぱりここにいたのね、エリオット、ルーシー……って」


 クロエの声が途切れた。彼女の目の前には、エリオットでもルーシーでもない、エロイーズとルシアンの姿があった。


「クロエ! これは……」


 エロイーズが慌てて言葉を発しようとしたが、クロエは静かに手を上げて制した。


「大丈夫よ。私はもう、あなたたちの本当の姿を見てもびっくりしないわ。むしろ、こうして二人が素直になれていることが嬉しいわ」


 クロエの言葉に、エロイーズとルシアンは安堵の表情を浮かべた。


「クロエ、ありがとう。君は本当に良い友達だ」


 ルシアンの言葉に、クロエは優しく微笑んだ。


「当たり前よ。友達の幸せを願うのは、友達として普通でしょ?」


 三人は、月明かりの下で静かに笑い合った。エロイーズとルシアンの手が、そっと絡み合う。


「さあ、もう遅いわ。寮に戻りましょう」


 クロエの提案に、二人は頷いた。しかし、練習場を出る前に、エロイーズとルシアンは再び変身魔法を使って、エリオットとルーシーの姿に戻った。


「いつか、きっと誰にも隠れる必要のない日が来るわ」


 エロイーズの言葉に、ルシアンは静かに頷いた。


「ああ、その日まで、一緒に頑張ろう」


 三人は、星空の下、アカデミー・ルミエールの寮へと歩み始めた。彼らの前には、まだ多くの試練が待ち受けているだろう。しかし、今の彼らには、それを乗り越える力が確かにあった。


 愛と友情という、何物にも代えがたい宝物を手に入れた彼らの物語は、まだ始まったばかりだった。

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