第9話「二人で踊れて、嬉しいわ」

 アカデミー・ルミエールの大講堂は、魔法の祭典の準備で賑わっていた。天井から吊るされた無数の光の球体が、虹色の光を放ち、幻想的な雰囲気を醸し出している。学生たちは、思い思いの魔法で装飾を施し、祭典への期待に胸を膨らませていた。


 エリオット(エロイーズ)は、風の魔法で花びらを舞わせながら、高い場所の装飾を手伝っていた。その姿は、まるで風と一体化したかのように優雅だった。


「エリオット、すごいわ! その動き、まるでダンスみたい」


 ルーシー(ルシアン)の声に、エリオットは我に返った。彼女の頬が、少し赤くなる。


「あ、ああ……別に大したことじゃないさ」


 エリオットは照れ隠しに、髪をかき上げた。その仕草が、妙に色っぽく見えた。


「そうだ、ルーシー。魔法祭の夜のダンスパーティ、一緒に踊らないか?」


 エリオットの言葉に、ルーシーは一瞬言葉を失った。彼女の心臓が、激しく鼓動を打つ。


「え、えっと……そうね。もちろんよ、エリオット。二人で踊れて、嬉しいわ」


 二人は、互いに微笑み合った。その瞬間、周囲の空気が一瞬きらめいたように見えた。


 準備が進む中、クロエがエリオットとルーシーに近づいてきた。彼女の周りには、いつものように薄い霧が漂っている。


「二人とも、魔法祭の出し物は決まった? 私たち霧の魔法使いは、幻影ショーをすることになったわ」


 エリオットとルーシーは顔を見合わせた。


「そういえば、まだ決めてなかったな……」


「そうね。何かいいアイデアはないかしら」


 クロエは、意味深な笑みを浮かべた。


「二人の魔法を合わせたら、きっと素敵なものができるわよ。風と雷の共演……想像しただけでわくわくするわ」


 その言葉に、エリオットとルーシーの目が輝いた。


「そうだな。風と雷の魔法を使って……」


「幻想的な光のショーはどうかしら?」


 二人の言葉が重なり、お互いに驚いた表情を見せる。クロエは、満足げに頷いた。


「素敵なアイデアね。きっと、みんなを魅了するわ」


 魔法祭当日、アカデミー・ルミエールは祝祭ムードに包まれていた。中庭には露店が立ち並び、様々な魔法の食べ物や雑貨が売られている。空には、光の精霊たちが舞い、祭りを盛り上げていた。


 エリオットとルーシーは、自分たちの出番を待ちながら、緊張した面持ちで控室に座っていた。


「緊張するな……」


「ええ、でも大丈夫よ。私たち、一緒だもの」


 ルーシーの言葉に、エリオットは安心したように微笑んだ。その瞬間、二人の手が触れ合う。驚いて目を合わせた二人は、そのまましばらく見つめ合った。


「エリオット、ルーシー、そろそろよ!」


 クロエの声に、二人は我に返った。深呼吸をして、舞台へと向かう。


 大講堂は、観客で溢れかえっていた。エリオットとルーシーが舞台に立つと、会場が静まり返る。


「行くぞ、ルーシー」


「ええ、エリオット」


 二人の魔法が解き放たれた。エリオットの風が、ルーシーの雷を包み込む。青白い稲妻が、風の渦の中で舞い踊る。その光景は、まるで天空の舞踏のようだった。


 観客たちからどよめきが起こる。エリオットとルーシーの魔法は、完璧に調和し、幻想的な光景を作り出していた。風と雷が織りなす光のショーは、まるで二人の心が一つになったかのようだった。


 ショーが終わり、大きな拍手が沸き起こる。エリオットとルーシーは、互いに顔を見合わせて笑顔を交わした。


「やったわ、エリオット!」


「ああ、最高のショーだったな、ルーシー」


 興奮冷めやらぬ二人は、そのまま中庭へと向かった。夜空には、魔法の花火が咲き乱れている。エリオットは、ルーシーの手をそっと取った。


「さあ、約束のダンスをしよう」


 ルーシーは、頬を赤らめながら頷いた。二人は、魔法の音楽に合わせて踊り始めた。その姿は、まるで物語の中の王子と姫のようだった。


 周囲の学生たちは、その光景を羨望の眼差しで見つめていた。しかし、エリオットとルーシーの目には、互いの姿しか映っていなかった。


 ダンスの最中、エリオットは思わずルーシーを引き寄せた。二人の顔が、とても近くなる。


「ルーシー、俺は……」


 その瞬間、大きな音とともに特大の花火が打ち上がった。驚いて体を離す二人。しかし、その目には確かな感情が宿っていた。


 魔法祭の夜は更けていったが、エリオットとルーシーの心に芽生えた感情は、ますます大きくなっていった。それは、もはや友情とは呼べないものだった。

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