第6話「一緒なら、きっと大丈夫」

 アカデミー・ルミエールの大講堂は、朝日を受けて輝く水晶のシャンデリアの下、学生たちの熱気に包まれていた。壁一面に広がる魔法の壁画が、まるで生きているかのように動き、色とりどりの光を放っている。その中央に立つプロフェッサー・アメリー・ルーンクラフトの姿は、まるで魔法の化身のようだった。


「今日から、二人一組でのフィールドワークを始めます。課題は、エーテリアの古代遺跡で眠る魔法の結晶を見つけ出すこと。この課題は、皆さんの魔法の適性と、チームワークを試すものです」


 教授の言葉に、講堂全体がざわめいた。エリオット(エロイーズ)は、隣に座るルーシー(ルシアン)の方をちらりと見た。二人の目が合い、小さな微笑みを交わす。


「パートナーは……」


 教授の言葉に、エリオットとルーシーは身を乗り出した。


「くじ引きで決めます」


 その瞬間、二人の表情が曇った。しかし、運命の女神は二人に微笑んだようだ。


「エリオット・ラルーンとルーシー・トネールのペアです」


 エリオットとルーシーは、驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。周囲からは、羨望のまなざしが二人に向けられる。


「よろしく頼むぞ、ルーシー」


「ええ、こちらこそ、エリオット」


 二人は、互いに内心で安堵のため息をついた。


 フィールドワークの舞台となる古代遺跡は、アカデミーから東へ半日の道のりにある「月影の谷」だった。深い森に囲まれた谷には、半ば崩れた石造りの建造物が点在し、かつての栄華を静かに物語っている。空中には、魔力を帯びた光の粒子が漂い、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 エリオットとルーシーは、他のペアから少し離れた場所で、魔法の結晶を探していた。エリオットの風の魔法が周囲の空気を操り、ルーシーの雷の魔法が地中の反応を探る。二人の魔法が絶妙に調和し、まるで長年の相棒のように息が合っていた。


「ねえ、エリオット」


 ルーシーの声に、エリオットは振り向いた。


「なんだ?」


「私たち、こうして一緒にいると、なんだか不思議な気分になるわ。まるで……本当の自分でいられるような」


 ルーシーの言葉に、エリオットは一瞬言葉を失った。彼女の心の中で、温かな感情が広がっていく。


「ああ、俺もそう感じる。お前となら、きっと何でも乗り越えられる気がするよ」


 エリオットの言葉に、ルーシーは頬を赤らめた。しかし、その瞬間、二人の足元で地面が揺れ始めた。


「っ! これは……」


 突如として、巨大な岩の怪物が地面から現れた。その姿は、古代の守護者を思わせる威厳に満ちていた。怪物の両目からは、青白い光が放たれ、その体には古代の魔法文字が刻まれている。


「くっ、こんなところに魔物が!」


 エリオットは即座に身構え、風の魔法を展開した。ルーシーも素早く雷の魔法を準備する。


「エリオット、私たちの魔法を合わせましょう!」


「ああ、任せろ!」


 エリオットの風の渦がルーシーの雷を包み込み、青白い稲妻を纏った竜巻が形成された。その威力は、二人が想像していた以上のものだった。魔法の竜巻は、岩の怪物に激突し、その体を粉々に砕いていく。


 怪物が崩れ落ちる瞬間、その中心から鮮やかな光を放つ結晶が現れた。


「あれが……魔法の結晶!」


 エリオットとルーシーは、驚きと喜びの表情を交わした。


「やったわ、エリオット! 私たち、やり遂げたのよ!」


「ああ、一緒だったからこそできたんだ」


 二人は、互いの手を取り合い、喜びを分かち合った。その瞬間、エリオットとルーシーの体が微かに輝き、一瞬だけ本来の姿が垣間見えた。しかし、二人はそのことに気づかなかった。


 月影の谷に夕日が差し込み、魔法の結晶が虹色の光を放つ。その中に映る二人の姿は、まるで一つの魂のように調和していた。


「一緒なら、きっと大丈夫」


 エリオットの言葉に、ルーシーは静かに頷いた。二人の前には、まだ見ぬ冒険が待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月27日 12:00
2024年9月28日 12:00
2024年9月29日 12:00

男装王女と女装王子の秘密の恋 〜魔法学園で紡ぐ運命の絆、あるいは風と雷のシンフォニア〜 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ