第5話「私たち、同じなんだね」
月光が練習場を銀色に染める中、エロイーズとルシアンは向かい合って座っていた。二人の周りには、風と雷の魔法が混ざり合い、幻想的な光の渦を作り出していた。これまでにない親密さが、二人の間に生まれていた。
「私たち、同じなのね」
ルシアンの言葉に、エロイーズは小さく頷いた。彼女の目には、安堵と期待が混ざった複雑な感情が浮かんでいた。
「ああ。まさか、こんな形で打ち明けることになるとは思わなかった」
エロイーズは自嘲気味に笑った。その笑顔に、ルシアンは心を打たれた。月明かりに照らされたエロイーズの姿は、これまで見たことのない柔らかさを湛えていた。
「私は……本当はある国の王子なの。身分を隠すために、こうして女装しているのよ」
「……私は、ある呪いで、男の姿でいないと病気になってしまうんだ」
ルシアンの告白に、エロイーズは驚きの表情を浮かべた。その瞬間、ルシアンの周りに漂う雷の粒子が、より鮮やかに輝いた。
「それよりも、今ぐらい男言葉で喋ってもいいんじゃないか?」
エロイーズの言葉にルシアンは力なく首を振った。
「だめよ。どこで誰が聞いているかわからないし……それにもうずっとこうだから、こっちのほうが楽になってるの」
「そうなんだ……」
「あなただってずっと男言葉じゃない?」
「言われてみればそうだ」
エロイーズは屈託なく笑った。彼女の周りを漂う風の精霊たちが、彼女の言葉に呼応するように、優しく舞い始めた。
練習場でエロイーズとルシアンは向かい合って座っていた。二人の間には、これまでにない親密さが漂っている。エロイーズの金髪が風に揺られ、ルシアンの赤褐色の髪が月の光を受けて綺麗に輝いていた。
「呪い……それで、ずっと男装してたのね」
ルシアンの声には、同情と理解が混ざっていた。彼の琥珀色の瞳には、エロイーズへの新たな感情が宿っていた。
「ああ。でも、お前だって大変だったんだな。本当は王子様なのか……」
エロイーズは、ルシアンの肩に優しく手を置いた。その仕草には、これまでの敵対心が微塵も感じられない。
二人は互いの過去を語り合った。エロイーズは、幼い頃に受けた呪いのこと、それを解くために奔走する両親のこと、そして男装しながら魔法を学ぶ決意をしたことを話した。一方ルシアンは、政治的な駆け引きの中で、身を隠すために女装を選んだこと、故郷への想いと、平和を願う気持ちを打ち明けた。
話すほどに、二人の心の距離は縮まっていった。これまでの誤解や反発が、まるで砂城のように崩れ去っていく。エロイーズの強気な態度の裏に隠れていた繊細さ、ルシアンのクールな振る舞いの奥にある温かさ。互いの本質を知るにつれ、二人は深く共感し合っていった。
「私たち、随分と誤解し合ってたわね」
ルシアンの言葉に、エロイーズは苦笑いを浮かべた。
「ああ。お前をいけ好かない着飾った生意気な女だと思ってたなんて、恥ずかしい限りだ。俺は女を見る目がないようだ」
エロイーズの正直な言葉に、ルシアンは小さく笑った。その笑顔は、これまで見せたことのない柔らかさに満ちていた。
二人が話し合う中、練習場の古い石壁に刻まれた魔法陣が、かすかに明滅し始めた。それは、まるで二人の心の変化を感じ取ったかのようだった。壁一面に広がる複雑な文様が、ゆっくりと青白い光を放ち、その光は次第に強さを増していく。
エロイーズとルシアンの周りを漂う風と雷の魔法が、徐々に調和を始めた。風に乗って舞う雷の粒子が、美しい螺旋を描き出す。二人の魔力が共鳴し、練習場全体が幻想的な雰囲気に包まれていった。
「見て、エロイーズ。壁の魔法陣が……」
ルシアンの言葉に、エロイーズも驚きの表情を浮かべた。
「ああ。まるで、俺たちの気持ちを映し出しているみたいだな」
魔法陣の光は、二人の心が通じ合うにつれ、より一層輝きを増していった。それは、長い間隠されていた二つの魂が、ようやく本当の姿を見せ合えたことを祝福しているかのようだった。
エロイーズとルシアンは、互いを見つめ合い、小さく頷いた。言葉なくして、二人は互いの存在の大切さを感じ取っていた。練習場を包む魔法の光の中で、新たな絆が確かに結ばれつつあった。
「エロイーズ、私たちの秘密、守り合えるわよね?」
ルシアンの問いかけに、エロイーズは真剣な表情で応えた。彼女の瞳には、決意の光が宿っていた。
「ああ、もちろんだ。俺たちには……私たちには、お互いしかいないんだからな」
その瞬間、二人の魔法が共鳴するかのように、練習場全体が柔らかな光に包まれた。風と雷の魔法が美しく交わり、新たな絆の誕生を祝福しているかのようだった。壁に刻まれた古代の魔法文字が輝きを増し、二人を中心とした魔法陣が床に浮かび上がる。
エロイーズとルシアンは、互いに微笑みを交わした。これまで誰にも言えなかった秘密を共有し、二人の心には温かな感情が芽生え始めていた。
「これからは、一緒に頑張ろう」
エロイーズの言葉に、ルシアンは嬉しそうに頷いた。
「ええ、そうね。でも、学校では今まで通り、エリオットとルーシーのままでいなきゃね」
ルシアンの言葉に、エロイーズは少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直した。
「そうだな。でも、こうして本音で話せる時間があるだけでも、随分と気が楽になりそうだ」
月明かりの下、二人の新たな物語が始まろうとしていた。互いの秘密を知り、理解し合った二人は、これからどんな冒険を繰り広げるのだろうか。アカデミー・ルミエールの古い練習場は、その答えを静かに見守っていた。
夜も更けてきた頃、エロイーズとルシアンは元の姿に戻り、別々に寮へ戻る準備を始めた。
二人は最後に握手を交わし、それぞれの道を歩み始めた。練習場を後にする二人の背中には、これからの未来への期待と不安が入り混じっていた。
アカデミー・ルミエールの塔の頂では、星々が輝いていた。その中に、普段は見られない二つの星が並んで輝いているのが見えた。まるで、エロイーズとルシアンの出会いを祝福しているかのように。
そこにセレスト・エトワール教授がまるで妖精のように現れる。
「こんばんは、二人とも。夜空に興味があるのかしら」
二人は驚いて振り向いた。
「「セレスト先生!」」
セレストは微笑んで言った。
「星々は私たちの運命を映し出すものよ。特に、あなたたち二人の星は、とても興味深い動きをしているわ」
エリオットが尋ねる。
「私たちの星? どういう意味ですか?」
「それはね、」
セレストは意味深に言った。
「これから二人が経験することの予兆かもしれないわ。でも、それを知るのは二人自身よ」
その夜、エリオットとルーシーは星々について、そして自分たちの未来について考えながら眠りについた。
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