第4話「まさか、お前……」
アカデミー・ルミエールの秘密の練習場で、エリオット(エロイーズ)とルーシー(ルシアン)は互いを意識しながら特訓を重ねていた。古代の魔法陣が刻まれた地面は、二人の魔力に反応して微かに輝いていた。しかし、この夜は少し違っていた。
ルーシーの手から放たれた雷の魔法が、突如として制御を失った。青白い電光が練習場内を無秩序に飛び回る。壁に刻まれた魔法文字が激しく明滅し、空間が歪むような錯覚さえ感じられた。
「危ない!」
エリオットの警告の叫びが響く。彼の風の魔法が瞬時に展開され、暴走した雷を包み込もうとする。風と雷が激しくせめぎ合い、まばゆい光と轟音が練習場を満たした。
しかし、その衝撃は予想以上に強烈だった。ルーシーは防御の姿勢を取る間もなく、大きく吹き飛ばされる。彼女の体が宙を舞い、そのまま壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
ルーシーの苦痛の呻きが漏れる。彼女はゆっくりと地面に滑り落ち、うつ伏せの状態で倒れ込んだ。
エリオットは慌ててルーシーの元へ駆け寄った。
「大丈夫か!? ルーシー!」
エリオットがルーシーの肩に手をかけ、起こそうとした瞬間だった。ルーシーの制服の胸元から、何かが転がり出た。それは、柔らかな布で作られた詰め物だった。偽りの胸の形を作るために使われていたものだ。
同時に、ルーシーの髪を束ねていたリボンが解け、長い赤褐色の髪が月明かりに照らされて輝いた。
髪が乱れ、化粧が少し崩れたその顔立ちは、今まで見ていた「ルーシー」とは明らかに違っていた。そこにあったのは、繊細ながらも凛とした少年の容貌だった。
エリオットは息を飲んだ。目の前で起きた変化に、言葉を失う。
「まさか、お前……」
エリオットの驚きの声に、ルーシー……ルシアンは我に返った。彼は慌てて胸元に手をやり、転がり出た詰め物を隠そうとする。同時に、乱れた髪を押さえ、顔を背けようとした。
「見なかったことにして……」
ルシアンの声は震えていた。その声には、今までの「ルーシー」とは全く違う怯えた音色があった。
エリオットは、目の前で起きた変化に戸惑いながらも、どこか安堵の気持ちも感じていた。自分だけが秘密を抱えているわけではないという事実に、複雑な感情が湧き上がる。
エリオットは、自分の秘密も明かすべきか迷った。心臓が激しく鼓動する。
(俺だって……いや、私だって同じなんだ)
エリオットは深く息を吐いた。決意の表情で、胸を押さえつけていた布を緩めた。
「ルーシー、俺も……いや、私も隠し事がある」
エリオットの姿が、少女のそれへと変化していく。ルーシーの目が驚きで見開かれる。
「あなたは……女性だったの?」
二人は互いを見つめ、言葉を失った。秘密を共有した瞬間、二人の間に流れていた緊張が、少しずつ解けていくのを感じた。周囲の魔法の気配も、二人の心の変化に呼応するかのように、穏やかな光となって包み込んだ。
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