砂漠の行進
暑さに耐えつつ、砂漠の中を進んでいると、体力はどんどん削られていく。俺は内心で愚痴をこぼしながらも、前方に見えてきた街に一縷の希望を抱いていた。この街は、ローズと最初に会った町よりも明らかに大きい。もし、商人が市場に向かっているのなら、いずれすれ違う可能性が高い。砂漠に続く道は一本だけだし、ここを逃せば次はいつ見つけられるか分からない。
「ねえ、アラン。暑いわ」
背中に乗ったローズが不満そうに呟く。俺の肩にしがみついている彼女の重さが、さらに暑さを増幅させる。いや、それは仕方ない。彼女は「歩きたくない」と言ったので、俺が背負っているのだ。俺だって大変なのに、その苦労が伝わっていないようだ。
「分かってるよ……もう少し我慢してくれ」
そう返すが、正直なところ俺も限界が近い。手持ちの水も残りわずかで、このままじゃやばい……と考えていると、突然ローズが叫んだ。
「あ、オアシスよ!」
その指差す先には確かにオアシスが見える。助かった……このままじゃ干からびる寸前だったし、水を補給できるならそれに越したことはない。俺はローズを背負ったまま、少し足早にオアシスへと向かう。
だが、オアシスに近づくにつれて、不穏な気配が漂ってきた。先客がいる――しかも、それはただの旅人ではなく、武装した兵士の集団だ。鎧は脱ぎ捨てられ、皆暑さに耐えかねているのか、休息をとっている様子だが、油断ならない。
「王国の騎士よ……」ローズが小声で囁いた。
俺は一瞬動揺する。王国の騎士? ってことは、ローズを追っている連中じゃないか。なんでこんな砂漠の真ん中で、しかもオアシスで出会ってしまうんだよ! 運がなさすぎるだろう。
とにかく、このままでは捕まってしまう。俺は急いでラノベを取り出し、「勇者が透明魔法を使い、追っ手から逃れる」という文章を見つけ、指でなぞる。すると、俺たちはたちまち透明になった。よし、これで視覚的には追われる心配はないだろう。
だが、問題はここからだ。俺たちは透明になったものの、砂の上を歩けば当然、足跡が残ってしまう。透明だからと言って、足跡までは消せない。しかも、このオアシスは広いわけではない。騎士たちが少しでもこちらに近づけば、足跡を見つけられてしまう可能性が高い。
案の定、騎士たちは怪しげな足跡に気づき始め、こちらに向かってくる! くそ、こんな隠れる場所がない場所でどうやって逃げ出せばいいんだ!?
焦りと汗が一気に吹き出す。俺は周囲を見渡し、何かしらの逃げ道を探すが、オアシス周辺には木々も茂みもなく、ただ開けた砂地が広がっているだけだ。追っ手から逃れるには、別の手を打たなければならない。
「仕方ない、ここは一か八かだ……」俺は決意を固め、ローズに囁く。
「ローズ、しっかり捕まってろよ。少し荒っぽいことをするからな!」
俺は再びラノベをめくり、次なる一手を探し出す。そして、ようやく目に留まったのは「勇者が砂嵐を起こし、敵の視界を奪う」という記述だ。これしかない! 俺はその一文に指を走らせた。すると、周囲の砂が突然舞い上がり、猛烈な砂嵐が発生した。
「よし、今のうちだ!」
砂嵐によって視界が遮られ、騎士たちも動きを止めた。俺はその隙をついて、全力で走り出す。透明のまま足音をできるだけ抑え、砂嵐の向こう側へと逃げるのだ。
果たして、この作戦でうまく逃げ切れるのか……!?
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