颯爽と美少女を救ってみる
魔物に襲われながらも――まあ、例によってラノベの力を借りて何とか倒したわけだが――俺はようやく町にたどり着いた。さすがに一人で生き抜くのは無理がある。魔法は便利だが、さすがにこれだけでこの世界を生き抜くのは厳しい。ラノベの内容次第で多少の状況は乗り越えられるとはいえ、制限があることは否めない。ああ、仲間が欲しい。仲間さえいれば、俺だって……。
そうは言っても、現実は甘くない。俺が「仲間になってくれ」と言っても、「お前、何もできないじゃん」と即座に拒否られるだろう。現実は辛い。前世でも友達は少なかったし、どうせここでも一人ぼっちだろうなと内心苦笑する。いや、こんなことを考える前に、まずは身の安全を確保するべきだ。とにかく、町にいる間に色々準備しておかないと。
そんな思案にふけっていると、突然、怒声が響いてきた。
「そこの娘を捕まえろ!」
振り返ると、金髪碧眼の美少女がこちらに向かって全速力で走ってくる。息を切らし、焦った表情を浮かべながらも、その顔は整っていて美しい。まるでラノベのヒロインそのものだ。なんて都合のいい展開だ。追われている理由は分からないが、ここで華麗に助けて、ついでに「ありがとう、あなたは私の命の恩人よ!」なんて展開になったら、それこそラノベみたいな状況だ。
俺は急いで手に持っていたラノベのページをめくる。内容は――「王女が追われているとき、勇者は火属性の魔法を使い、追っ手を撃退した」。これは使える! え、待てよ、彼女が本当に王女だとは限らない。でも、そんなことは気にしちゃいられない。俺は適当に「王女」の「女」から文章をなぞり、力を込める。
すると、指先から小さな火球がポンッと飛び出し、男たちの服にかすかに燃え移る。大した威力じゃないが、追っ手が焦って服の火を払う間に、俺は美少女の手を掴んで走り出した。
「ほら、逃げるぞ!」
俺たちは一気に町の外れまで駆け抜ける。どうにか追っ手を振り切ったところで、ようやく俺は息をついた。彼女の手を放し、深呼吸しながら彼女に声をかける。
「大丈夫か?」
「まあね、ありがとう。でも、どうして私を助けたの?」
彼女は不思議そうに俺を見つめる。いや、別に深い理由はないんだ。ただ、俺のラノベ脳がそうさせただけだ。けど、ここは格好よく答えておくべきだろう。
「そりゃ、困ってる人を見過ごせないからさ。ところで、君はなんで追われてたんだ? まさか……窃盗とか?」
しまった、窃盗という可能性を考えるべきだった。
「ふふ、窃盗なんてしないわよ。理由は簡単よ。私がこの国の王女だから」
「え……王女?」
冗談かと思ったが、彼女の真剣な眼差しに冗談の気配はない。どうやら本当に王女らしい。俺は思わず、ぽかんと口を開けたまま、彼女の言葉を聞いていた。
「自由を求めて城を抜け出したの。でも、当然ながら兵士たちに追われてるってわけ」
「ということは、さっきの男たちは……?」
「ええ、私を連れ戻そうとしていた兵士よ。つまり、あなたは王女を連れ去った犯人として指名手配されるかもしれないわね」
うわぁ……俺はやらかしたのか? 助けたつもりが、まさか王女を誘拐したことになってしまうとは。何という展開だ。完全に予想外だ。これは大変なことになったぞ。いや、まずい。ものすごくまずい状況だ。
「私はローズ。あんたの名前は?」
名前か。この世界での名前は考えていなかった。俺は焦って、咄嗟に口をついて出たのは……「俺はアラン」。もちろん、俺が愛読していたラノベの主人公の名前だ。さて、王女と二人でイチャイチャしながら、暮らしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。