第3話 鞍馬の小天狗

  京の座に入り主人に座の札を見せて、「これから井ノ口の町に行くのですが、どの交易品が売筋でしょうか。」


 「文句なしに茶だね、どこの町でもかなりの利益がでる。他には茜がおすすめかな。」


 「なるほど。馬一頭で無理なく運べる量を仕入れたいのですが、如何ほどが良いかな。」


 「茶を15箱に茜を5箱ぐらいでいいのじゃないかな。」


 「承知しました。それでお願いします。」


 「もし井ノ口からまた京に戻るなら紙を20箱仕入れてくれないか。」


 「かまいませぬが、向こうで少々難しい仕事を受けているので帰りがいつになるやら、、、」


 「それってもしかして、隠し蔵元かい。」


 頷く双葉に「以前にうちの座で同じ依頼を受けたことがあってな、かなりの腕利きが探せなかったよ。酒造りに清水は欠かせないから川の中、上流を探したらしい。

 美濃の国には長良川、揖斐川、木曾川があって探してないのは長良川だそうだ。」


 「おぉ、貴重な助言かたじけない。」


 「いいってことよ。見つかるといいな、隠し蔵元。」


 双葉は、深々とお辞儀をして座を出た。


 (さて、北野天満宮にむかうとするか。ケロのやつ、大人しくしていればいいが、、、)

 

 預かり所に着くと主人が「あんた、これ見てくれよ。」と腕をみせた。

ケロの歯形がくっきりと。


 「申し訳ござらぬ。これで勘弁してやってくれ。」と預かり賃を倍額払うと

「金輪際、あんたの馬は預からないよ」といいながらも許してくれた。


「この調子だとどこも預かってもらえなくなるぞ。」


(しったことか、ぼけぇ!)と言わんばかりにそっぽを向いた。


(こ奴は気に入らないことを言われたときは、なんとなくわかるみたいだな。)


ケロに積荷を載せて北野天満宮に向かうことにした。


 京の町を北に向かうと、まさしくこれぞご先祖様=道真公の総本社、北野天満宮の入り口に着いた。

 少し季節は遅くとも、さすがに多くの梅林が、その香りをあたり一面に届けている。

 上品な、いや貴品さえ感じる香り。

 

 広い境内の奥に立派な本殿のお社があり多くの人が参拝している。

再拝,二拍手、一拝

(ご先祖様、どうか良い出会いに巡り合えますように。)


こうゆうときに一番似合う歌といえばやはりあれだな。


この度は 幣もとりあえず 手向け山

 もみじの錦 神のまにまに

            菅原道真


 双葉は特にこの歌がお気に入りで、ぼんやりと物思いにふけっているときなど、知らず知らずのうちについ口にしてしまう。 

 ときには鼻歌まじりで。

 

 念願の総本社にへの参拝を済ませ満足気な双葉に「もしや、お武家様は菅公ゆかりのお方でしょうかな」と社の神官らしき人物に声をかけられた。


 「はい、、、ああ、この本家家紋の剣梅鉢ですね。確かに筑紫国から出てきたばかりの子孫です。」


 「やはり。なにやら、熱心に御祈願の様子で、つい気になってな。」


 「なにぶん、上方では新参者。なんのつてもござらぬゆえ、良き人との出会いを」


 「これから何処に向かうおつもりかな。」


 「美濃の国でござる。」


 「ならば、美濃に人あり。今孔明こと竹中半兵衛重治殿なら申し分なし。あともう一人。少し寄り道になるが、鞍馬山の義経ゆかりの地辺りに滅法強い武芸者がいるらしい。通称鞍馬の小天狗。会ってみて損はないと思われるが。」


 「今孔明に小天狗!是非とも会ってみたい。助言感謝いたす。」


 「礼には及ばぬが、また参拝に来なされ。」


 「報告も兼ねて必ず。」深々と頭を下げてその場を去った。


 北野天満宮から鞍馬山へは美濃に向かう際にそれほど遠回りでもない。


(滅法強い武芸者か。語り合うより剣を交える方がてっとり早いか。いずれにしても会うのが楽しみだ。)


 鞍馬山のふもとに着くと、山頂に続いていく石段の近くに小さな茶店があった。

(少しのども乾いたし、小天狗の情報も聞けるやもしれぬ。寄っていくか。)


 「おこしやす。なににしまひょ。」と気立てのよさそうな婆さん。


 「お茶と団子3皿、あと握り飯を5個包んでおくれ。」

 

 「はいはい、少しお待ちに。」


 お茶と団子が運ばれてきたときに小天狗のことを尋ねると

鞍馬山の頂上近く義経公ゆかりの神社に住んでるとのこと。

 ここの茶店の団子が手土産にいいらしい。

婆さん、なかなか商売上手だ。

 

 茶店の横手の木にケロを繋ぎとめて、戻るまで近寄らずに気にかけてもらえたらとお願いした。


 石段を登りきるとかなり険しい山道が続いており、登るのに骨が折れるとこだが、双葉は例の鼻歌交じりにひょいひょい登っていく。

 体重を感じさせない身の軽さだ。


 山頂近くの開けた場所にたどり着くと、鳥居があり潜り抜けると社と住居があった。

 まずは参拝だ。賽銭をいれ、鈴を鳴らして一礼、柏手を打つとパァーンとあたり一面に響き渡った。


(さて、小天狗殿は何処に)


 社の横に回ってみたら入口がある。いつもなら声を掛けてから入るのだが、今日は無言で入らせてもらった。

 廊下を進んで行くと、広くはないが床が板張りの道場らしき部屋の中央に、座残を組んで瞑想している人物がいた。

 (おそらくあの人物が小天狗殿だろう。)


声を掛ける前に「どなたかは存じませぬが、拙者は無言で背後に立たれるのを好みませぬ。」


 (どこかで聞いたことのあるセリフだな。だれだっけ?)


 「これは失礼ぶっこきましてございます。」

(いかん!小梅のが伝染った。)


 「それがし、東風双葉と申す者。今日はお願いがあって参りました。」


 「ほう、願いとな。なにやら面白そうだ。伺いましょう。」


 「それがしと共に、戦乱の世を終わらせて太平の世を造るのを手伝って頂きたい。」


 「貴殿は天下人になるおつもりか。」


 「なれるものなら それも悪くないが。しかしそれがしだと時間がかかりすぎまする。一刻も早くが望みゆえ、天下統一の志があり、それなりの力がある大名に仕官するのが上策かと。」


 「して、その大名とは。」


 「今はまだわかりませぬ。これから共に探す所存にて。」


 「とんだ大ぼら吹き!だが、そこまでいくと愉快千万!

よかろう、同士になってもいいが一つだけ条件、いやお願いがござる。」


 「伺いましょう。」


「拙者、これまで剣、槍、弓など武芸百般それなりに極めたつもりだが、どうしても南蛮渡来の鉄砲とやらを手に入れたいが高額でとても手が出ない。」


 「承知致しました。すぐには持ち合わせが足りませぬが、今受けている仕事が済めばその報酬で買い求め、必ずやお渡しいたしまする。」


 「ならば、たった今より拙者は貴殿の同志じゃ。よろしく頼み申す。」


 「こちらこそ!ちなみにご尊名を伺ってもよろしいか。」


 「これは申し遅れました。東郷十三と申す。」


 これが通称ゴルゴ、、、じゃなくて、鞍馬の小天狗との長い物語のはじまりだった。


  






 

 

 


 


 


 

 


 

 

 


 






 


 




 

 

 


 


 


 

 

                


  


 





 







 


 

 

 

 

 

 




 


 


 

 



 

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