第2話 看板娘
そろそろ昼前だ。
朝から何も食べていないのでかなりの空腹を感じる。
京の町には馬屋がないらしいが、世話をしてくれる預かり所のような場所はあるみたいだ。
辺りを見回すと2,3頭の馬をつないでいるそれらしき小屋を見つけたので、行ってみると、確かに預かって餌や水などの世話をしてくれるという。
ケロを預けて昼飯を食い、座によることにした。
預かり所の主にはくれぐれもケロの後ろには立たぬように言っておいた。
相も変わらず隙があれば蹴ろうとする。困ったやつだ。
京の町を歩いてみると堺の町とは雰囲気が違っていて、あまり忙しそうにしていない。どこかのんびりした風情がある。
蕎麦屋があったので喜び勇んで飛び込んだ。蕎麦は大好物!
店の中はまだそれほど混んでいなくて、落ち着いて食べられそうだ。
壁の目立つところに品書きが張ってある。
(ふむふむ。かけそば、ざるそば、たぬきそば、てんぷらそば、かも南蛮まである!
ジュル。いかん!よだれが。。。)
小柄な看板娘に声を掛けると「いらっしゃい!おきまりですか。」と笑顔で近寄ってきた。
なかなかの美人さんだ。
「取りあえず、ざる5枚、かも南蛮、あと握り飯を5個頼みます。」
娘は目をパチクリさせて、「わ、わかりました。」と返事をして、店主の方へ小走りで立ち去った。
双葉は蕎麦が来るのが待ちきれず、割り箸を割って口にくわえたまま、周りの人たちが蕎麦を食べている様子をキョロキョロ見ている。
その様子を見て、看板娘はクスッと笑って何やら店主にささやくと、握り飯と沢庵、お茶をお盆に乗せて運んだ。
「うちは注文が入ってからそばを切って茹でるので、少し時間がかかるのでお先にこれをどうぞ。」
「かたじけない、そなたは気がき。。」言い終わらぬうちに握り飯にかぶりついた。
お約束で喉につかえては、お茶で流し込み瞬く間に全部平らげた。
「握り飯を追加であと5個と、お茶のおかわりを頼む。」
「すぐに持ってきますね。」予め余分に作ったみたいでとんぼ返りで追加分を持ってきた。
「はい、お待ち」
「おお、早いな!やはりそなたは気が利くな。きっといいお嫁さんになるよ。」
「いやだあ、お侍さんたら。」言うと同時に双葉の背中を叩こうとした。
かわすまでもないと高をくくっていた双葉は、直感的に危険を感じたのか咄嗟に身をかわすと、ヴゥンと凄まじい空振りの音!さらには強い風圧!
喰らっていたらやばかったな。
看板娘侮り難し! 恐るべし看板娘!
待望のざるが運ばれてきた。
握り飯の時とは打って変わり、落ち着いて両手を合わせ「頂きます。」
蕎麦を適量箸で掴んで高く持ち上げ、そばつゆに少しつけて、一気にズズーとすすった。
見蕩れるほどにきれいな食べ方だ。
5枚目のざるを食べ終えると同時に、かも南蛮が運ばれてきた。
何度も息を吹きかけ恐る恐る食べている。
どうやら相当な猫舌のようだ。
食べ終えるのにはかなりの時間がかかりそうだ。
まさに昼時。
店の中はほぼ満席でごった返している。看板娘の奮闘ぶりが見事だ。
蕎麦を運んでいるときは両手がふさがっているのをいいことに、やたらと尻など触ってくる輩がいて、「触った人はお代倍払いね。何度も触ると平手打ち!」と看板娘。
それでも大半の客は触ろうとするようで売上5割増し!
これぞまさしく黄金の尻!!
うまい蕎麦と良い尻に巡り合えて上機嫌な双葉は、代金を払うときに、尻の名前、、、じゃなくて、看板娘の名前を聴いた。
「更科の娘、小梅と申します。以後ごひいきに。カモネ、、上客様。」
「小梅!それは縁起が良い。それがしの家系は代々梅を家紋とするぐらいに梅の花を愛でるが故に。その名に免じて喜んでカモネギになってやろうぞ。」
「失礼ぶっこきましてございます。何卒よしなに。」
なかなかにしたたかな娘だ。
蕎麦屋を後にして座に向かった。
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