第38話・JKロケット

「あまぐり、次のフェイズよろしく!」


 クミコは弾を撃ち出しながら指示を出した。


「ではアカリ殿、失礼いたす」

「え、なに?」


 そういえば、私だけなんの作戦も聞かされてないんだけど? 今回不要だからじゃないの? え……違うの?


 と考えていたら、突然あまぐりは私の腰に手を回して抱き寄せた。


「ちょっと、あまぐりさん?」


 たくましい腕に拘束されて厚い胸板に押し当てられ、身体が密着して顔が近い。

 呼吸がくすぐったいのと、汗でキラキラ輝く四肢から立ち昇る湯気。ドキドキして顔が火照って、恥ずかしさで体感温度が真夏並みだ。


「心臓吐きそう……」

「アカリん、それはもういいから」


「行くでござる」


 そしてあまぐりは私の足を片方ずつ両脇に抱え込むと、ゆっくりと回転しはじめた。


「え〜と……あれ、これってもしかして」


 だんだんとスピードが上がり、ミスミスミスミス……と空気を切る音が速くなってくる。


 ――待って、なんで私ジャイアントスイングされてるのよ!?


「アカリん、ドラゴンの横っ面ぶん殴ってきて!」

「もう、マジかんべんして〜〜。あ、ちょっ、おパンツが見え……」


 ブンッブンッと天地が回る中、あまぐりはドラゴンの頭を目掛けて私を放り投げた。バサバサと暴れるスカートの前後を手で押さえたまま、くるくると舞い上がって行く。


 しかしドラゴン頭部まであと半分、高さにして校舎二階の窓を超えたあたりで失速し始める。

 人ひとりを飛ばすのは相当難しいらしく、あのあまぐりですらこの辺りが限界ということらしい。


 しかし我らがブレーンクミコは、そこまで計算していた。失速し、完全に制止するその場所には次の発射台が待っていた。


「タケル!?」


 タケルは、あまぐりが私を打ち上げると同時に校舎の壁を駆け上がって三角飛びし、私の失速地点に飛び込んでいた。

 地上から約10メートルの空中で私を捕まえたタケルは、いきなり顔を近づけて来る。


「ちょっと、なにする……」


 咄嗟に顔をそむけた私のほほに、勢いが止まらないタケルはキスをしてきた。


「キャ〜」

「尊死〜」


 と下の方から聞こえて来たけど、頭の中が混乱しすぎてもはや誰の声かわからない。


「タケ坊主、卑怯でござるよ!」

「うるせぇ、やったもん勝ちだぜ」


 私が横を向かなかったら唇と唇だったわけで……ドキンドキンと心臓の音が爆音となって襲って来た。

 

 しかしそんなことはおかまいなしに、タケルは私の手をとるとそのままブンッ……と大きく回転、遠心力を利用して私をさらに上空へと打ち上げた。


 二段ロケットと化した私が、全力でドラゴンの顔に一撃を食らわせる。これがクミコの作戦なのだろう。だけどさ……


「ったくもう、サクサク終わるとか言ったの誰よ!」


 ……私だ。



「——嬢ちゃん、ドラゴンはツノの間が弱点や!」


「え、おいもさん……どうしてここに?」

「ショタ坊のやつ、嬢ちゃんを投げて力を使い果たしたんやろな。サクッと弾き出されたわ」

「それって、タケルは無事なの⁉」

「安心しいや、命に別状はないで。性格も戻っとるはずや」


 それなら一安心、とにかくよかった。あとはドラゴンを思いっきりぶん殴るだけなんだけど……


 明らかに高さが足りない。ドラゴンの顔の真ん前にいて、このままパクリといかれそうな感じがする。

 と思っていたら、ツノの間にバチバチと雷が発生しているのが見えてしまった。食べるどころかこの至近距離でブレス吐こうっての⁉


「ヤバイヤバイ、これヤバイって!」


 ドラゴンの顏だけでも大型トラックくらいの大きさがある。そんなトラウマにも近いものをこんな至近距離で見せられて、オマケにさっきのブレスが来るとか⁉

 なんとかならないかと思い手足をバタバタさせていると、レナが呼びかけて来た。


「アカリ、気合入れるにゃよ!!」

「気合って……」


 下を見ると、レナがこちらに向けて投球しようとしているのが見える。


「アカリん、魔法カード使って!」


 作戦開始前にレナがデスショットから押収した魔法カード。これには魔法障壁マジック・バリアが封入されている。


 これを使って足元に障壁を作り、レナの弾の威力を抑えつつドラゴンの頭上に飛び出る。多分、奥の手として保険的に用意しておいた策なのだろう。


 しかし、クミコに言われるがまま障壁を発生させた私は……そこに恐ろしいものを見てしまった。


「あ……」

「どしたんや?」

「レナの球がさ、シャボン玉を3つくらい割ったのが見えたんだけど」


 デスショットと戦った時、私の手の中の魔力で強化されたレナの球は、この魔法障壁マジック・バリアを破壊する威力があった。

 そして今は球そのものに魔力が込められているから、レナだけで同等の威力を持つ投球が可能だ。


 ――その魔力強化球がさらに3つもの魔力しゃぼん玉を割って超絶強化されて飛んでくる。


 小さな竜巻を発生させて、目視でも明らかに次元の違う高威力なだと判断出来るほどだ。


「嬢ちゃん……」

「なに?」

「逃げるんや!」

「無理ぃ~~~~」


 陸上の生き物が空中で制動できるずもなく……



 ――【ズドンッ!!!!!!】 


 パリン……と割れる障壁。私は足から血を吹き出し、鮮血の雨と共にドラゴンの頭上へと舞い上がった。


 ぼんやりと見えたのは、クミコとレナの『ああ、やっちゃった……』って表情。


 とりあえず身体がバラバラにならなくてよかったけど、またもや足がぐちゃぐちゃになってしまった。

 多少慣れたとは言っても死ぬほど痛い。それでも、そのおかげで頭の中がスッキリしてきたのはラッキーと思うべきか。


「ええか、ツノは攻撃に使うと同時に、弱い所を守る意味もある。つまり、ツノの間はダメージを受けることのない場所、ウィークポイントや!」


 冷静に解説してくれるおいもさん。今の位置からならバッチリと狙える場所だ。


「その拳に魔力を集中して、全力で打ちおろすんやで!」

「そんな簡単に言われてもさ……」


 私の体内に流れる全魔力を集中するイメージ。集中すればとんでもない威力を発揮できるはず。クミコはそこまで織り込み済みでこの作戦を実行したのだろう。


 だけど……


『魔力が流れているだけの素人が、そんな簡単に操作できると思うな』


 あの時親父が言った通り、即興でそんな簡単に魔力の操作なんてできるはずがない。



「——あ、そうか!」



 でも、その時私は超有効な手を思いついた。最大の魔力を最大値でぶち込む方法。痛みで脳がスッキリしたおかげなのかもしれない。


 私は、ポーチの中のおいもさんを手に取った。


「ちょ、嬢ちゃんなにをする気なんや……」


 なんとなく察したのか、あせるおいもさん。


「こらこら、バカな真似は……って、やめやってぇ!」

「喰らえ、これが空手奥義」


 私は、握り込んだおいもさんを……



「超必殺、おいもパ~~ンチ!! ……やで!」



 ――全力でドラゴンの脳天にぶち込んでやった!



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