第37話・気に入らないわね

 異世界人の二人が去り、この場にはサンダードラゴンだけが取り残されていた。


 勝手に呼び出しておきながら、放置して帰るとか……


「あいつら、ペットに愛着ないのか!」

「ホントもう、外来種を放置したらダメでしょ」

「在来種の生態系を壊すにゃ~」


 まあ、こいつは違う意味で生態系を壊しそうだけど。雷吐くし。


「「言うて、ドラゴンをペットにするのは無理やで」」

「そうなの?」


「「ドラゴンの知力は人間以上なんや。加えて数百年の知識まで持っとるんやで。人間なんぞに従う義理はあらへん」」


 クミコの目がキラリと光った。おいもさんのひと言になにかヒントを得た様だ。


「ねえ、おいも。その話が本当なら、話し合いでなんとかならない?」

「「……ワイに交渉せえと?」」

「それ以外なにかある?」

「「ったく、石使いあらいギャル子やで……」」


 そして『ゴゴゴ』『グギィゴゴオ』『ギャギャ!』『ゴワッ!』『ギュー……』と、わけのわからない竜語会話がしばらく続いたあと、おいもさんは静かに日本語を話した。


「「うん、予想はしとった。しとったけどな……」」

「なんて言ってたの?」

「「あ~、あのな……『ワシを倒したら言うこと聞いてやる』言うてるわ」」

「やっぱり戦うのかぁ」


 でも、なんとなく私もそうなりそうな気はしていた。と言うか……


「ヒポ丸の仇を取らないと……」


 仇討ちだなんて時代錯誤なことを言うつもりはないけど、このままではヒポ丸も浮かばれない。


「「あとな……アイツ、人語理解しとるで」」

「マジで?」

「「ああ、話せへんけどこちらの言葉は通じるそうや」」 

「なんか、それでもすごくない?」


 ドラゴンは『フンッ』と鼻息を荒く出すと、得意げな顔で私たちを見下ろしてきた。


「気に入らないわね、あの上から目線」


 と、クミコ。『すでに勝ったつもりの顔しているじゃん』と言っていたけど、私にはまったくわからない。


「「サンダードラゴンなんてとんでもないヤツが相手や。死ぬくらいの覚悟が必要かもしれんで」」

「おいもさん……」


 私はチッチッチッと指を振ってみせた。


「そんな覚悟いらないよ。私たちはもう、生き抜く覚悟で戦っているんだから」


 みんなの顔を見渡してみても、誰一人として悲壮感はない。

 普通に考えたら勝負にすらならない戦いだろうけど、この仲間たちとなら負ける気は全然しない。


「そんなわけで、クミ。作戦指揮よろ!」


 クミコは『やれやれ』と肩をすくめて見せるが、これはいつものこと。


「私たちのブレーンの本気見せてやる!」

「「つまり、丸投げっちゅーこっちゃな」」


 ……それを言うなよぉ。


「レナちょっといい」

「ん?」


 クミコはレナの耳元で指示を出した。もちろん、ドラゴンに作戦内容を聞かれない為だ。


「にゃるほど。ラジャったにゃ!」


 直後、校門に走るレナ。

 次にクミコはミーハーズを手招きして呼び寄せ……


「タケルの手助け、したくない?」


 と声をかけた。『手伝ってくれ』ではなく『推しの手助けがしたいだろ?』と、巧みに言葉をすり替えて。

 なにが起こっているかまったく理解しないままテンション爆上がりのミーハーズ。


 ……うん、なんか楽しそうだからいいとしよう。


「あまぐり、タケル様♡。二人にしかできない超重要なミッションがあるんだけど……」


 と、最後にフィジカル最強の二人に耳打ちして準備完了。


 クミコはす~~~~っと息を吸い込んだ。そして、ドラゴンをビシッと指差して叫ぶ!


「チンケなトカゲなんぞにウチらが負けるわけねぇだろ。泣いて後悔しやがれ、このバカちんクソ爬虫類があ!」


 と言いながら、クミコは人差し指をドラゴンから私にスーッと向けた。


「ってアカリんが言っていました~!」


「ええ、ちょ、私ぃ??」

「「ギャル子、煽ってどうすんのや」」

「ま、これも作戦のひとつだから」

「「どないなっても知らんで……」」


「待って、それって私がヤバイんじゃ……」


 サンダードラゴンの鋭い視線が私を刺す。


「怖いってあの目。クミぃ、なんで私なのよ~」

「アカリんなら最悪のケースでも死なないからね。適役でしょ」


 つまり、盾になれってか。確かに作戦丸投げはしたけどさ……


「ひっどいなぁ、もう」

「大丈夫でござる。アカリ殿は拙者が守り抜くでござるよ」

「「いや、俺様が守るに決まってんだろ」」


 ガルルルル……とにらみ合う二人。


「いいからさっさと動いて。アカリんを死なせたくないでしょ」


 クミコが手をパンパンッと叩くと、シャキっと動き出すあまぐりとタケル。


「心得たでござる!」

「「当たり前だ。俺様にまかせとけ!」」


 ……手なずけられてるじゃん。

 

 そして目の前には、太陽に照らされてキラキラふらふらと飛ぶシャボン玉が……


「——って、シャボン玉?」


 振り返ると、ミーハーズの三人がドラゴンに向けてシャボン玉を大量に吹き出していた。


「なに……やってるの」

「アカリん、忘れたの?」


 ……忘れた? なんのこっちゃなんですけど。


 シャボン玉は風に舞い、上昇しながらドラゴンに当たった。


 ――バチンッ!!!


 大きな音を立てて破裂するシャボン玉。当たった場所の鱗が、少し焦げている様にも見える。


「少し前に魔力込めてもらったじゃない」


 とクミコ。言われてみると何日か前に『実験したい』と言われて色々なものに魔力を込めされされたんだけど、その中にシャボン玉があったのか。

 あまりに大量だったから、なにに魔力を込めたかなんて全然覚えてない。


「あ、あ~、そうね。うん」

「……完全に忘れているわね」


 そしてそれをミーハーズの三人に渡して、牽制や補助的な攻撃をさせているのか。


「でも、全然ダメージがないみたいだけど」


 人間相手ならかなりの効果があったと思うけど、あの堅そうな鱗の上からだとまったく効果がない様に見える。


「アカリん、甘い!」

「え~」

「シャボン玉の真の使い方はこれ!」


 クミコはその一言が終わらないうちに手に持つエアガンのトリガーを引いた。

 撃ち出されたBB弾には魔力が付与されているが、もちろんそれ単体ではドラゴンの鱗には傷一つつかないだろう。しかし――


 パンッとシャボン玉をひとつ割ると、その弾速が跳ね上がった。


「え、これって」

「そう、スマホリングの応用」


 シャボン液に魔力を込めておく事で、吹き出されたその玉は言わば”魔力の塊“となる。

 そしてそれを割ったBB弾は、私の手の中を通ったレナの球やクミコのスマホリングの様に爆発的な威力の増加を得ることができる。


 実際そのBB弾はドラゴンの鱗にヒビを入れ、十分な威力を証明していた。


「「ふむ、正面から当たれば破壊可能やろな」」

「おいもさん、それどういう意味?」

「「ドラゴンの鱗には複雑な歪みがあってな、そのせいで攻撃が弾かれたり、威力が後ろに逃がされたりするんや」」

「つまり、今のは当たりどころが悪かっただけなのか」


 それでヒビ入れるのなら相当な威力があるってことだよね。なんかこのままサクサク終わりそうでよかった。クミコに任せて大正解!


「「ま、戦車の装甲がナナメだったり丸かったりするのはそう言う理由からやで」」


「……JKに戦車語られてもわからないってば」






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