第35話・悪意の刃
「はいはい、これをさっさと終わらせたら二人の話を聞くから」
そのひと言で、タケルはリュウセイへ、あまぐりはドラゴンへと向かっていった。
「「アカリ、約束したぜ」」
「サクッと倒してくるでござるよ、アカリ殿」
約束は約束、ちゃんと聞くから安心して。ま、聞くだけで返事をするとは言ってないけど。などと政治家みたいなことを思いつつ、私は
「見ての通りあの二人は強いよ。負けを認めた方がいいと思うけど?」
とは言ってみたものの、リュウセイは思いのほか強く、おいもさんと融合した覚醒タケルとほぼ互角。
単純なフィジカルだけなら覚醒タケルの圧勝だけど、リュウセイは異世界人特有の魔法を絡めた戦い方で、その差を埋めていた。
「負け? これからだろ」
百鬼は私たちを見てニヤリと笑う。
「どうせハッタリってやつでしょ? お見通しなんだから」
「フンッ、周りを見てみろよ」
と言われても……学校にドラゴン、異世界人と野次馬ども。なにも特別なものも人もいない。『やっぱりハッタリじゃん』と言いかけた時だ。
百鬼が短い呪文を口にすると、十数メートル離れた校門での会話が聞こえてきた。まるですぐ横で話しているような感覚だ。
「これらの破壊工作のすべてが、あの女子高生たちの仕業なのです」
——は?
「みなさん、あの制服に見覚えはないでしょうか? そうです、十日ほど前に世間を騒がせたゾンビ女子高生なのです!」
「ちょっと、なに言ってくれてんのよ、あのレポーター」
……いきなりやってきてマジなんなん?
「私たち取材班は、ゾンビ女子高生の話題が出たその日から、こちら猫鍋高校に張り込んでいました」
「嘘つけ、さっき来たばかりじゃん」
「そして取材の結果わかったことは、あの巨大生物を生み出した彼女たちは、女子高生になりすましたテロリストだったのです!」
「いや、だからなんで勝手なこと言って断定してんのよ。証拠なんてないのに!」
「アカリん……」
「なに?」
「多分、こっちの声は向こうに届いてないよ」
「え〜、なんかズルくない? 言いたい放題で私たちの声が届かないなんて」
「そもそも、テレビってそういうものじゃない」
たしかにクミコの言う通りだけど……でも、言われっぱなしってなんかヤダ!
「先ほど猫鍋高校に勤務する教員の一人が、あの巨大生物に噛み殺されました。さらには、私たちの目の前で、猫が人間に化けたのです」
「猫じゃなくてかわいい子犬じゃん。どこ見てんのよ」
「次に少年が生き返り、ああ、こちらもゾンビなのでしょうか、通りかかった人に襲い掛かっているのです」
「そんなわけないって。タケルをゾンビにすな!」
「でも、そんなわけあるんだニャ~」
と、からかうように言葉を挟んできたリュウセイ。
「なにが言いたいのよ」
「少しは頭を使えよニャ。ただ呼んだだけでマスコミが来る分けないニャ」
からかう様な、それでいて挑発まじりの口調で、リュウセイはとんでも無いことを暴露してきた。
「ボクが『ゾンビJKが学校でテロを起こすって』伝えたんだニャ」
「ひど、なんてめちゃくちゃなことを」
「それに、だニャ~……」
リュウセイはタケルから視線を外さないようにしながら、マスコミに向かって声を張り上げた。
「助けて下さい~~。ゾンビにおかしな術を使われて、ここから離れられないのです! ……ニャニャ」
「はあぁぁぁあああぁぁぁ⁉ なにを言いやがりますかこのバカ野郎は」
普通ならあんなわざとらしい言葉を信じる人はほぼいないだろう。しかし私たちを元凶と断定しているマスコミは、リュウセイの言葉が正義になっていた。
「テレビの前のみなさん、今のをお聞きになりましたか? やはりゾンビです、ゾンビのテロリストが高校の校庭で暴れているのです!」
鬼の首をとったように興奮し、まくし立てるマスコミ。
「ちょっ、ふざけんな! なにを言って……」
そして簡単に煽られて脳死で脊髄反射してしまう人達。
「マジかよ、この騒ぎ起こしてるのって、
「俺は最初からそう思ってたぜ」
「脳味噌腐ってんだろ? アタオカすぎんぞ」
……言いたい放題とはこのことか。
「いや、アタオカなのはコイツだし!」
と、私はリュウセイを指差したけど……
「アカリん、無駄だって。ウチらの声は届いてないみたいだよ」
「う~……」
私の無意味な行動を鼻で笑うリュウセイ。
「うわ、ムカつくなぁ」
「落ち着くにゃ~。今は無視するのがベストにゃよ」
クミコやレナに言われて、頭では落ち着かなきゃって思っても、どうしてもイライラしてしまってしょうがない。
「そもそもあの野次馬はなんの関係もないじゃん。通りかかっただけでなにひとつ被害はないのに文句言われる筋合いないよね?」
「こいつらをさっさと倒してから誤解をとけばいいにゃ」
「レナぁ~、そうは言ってもさぁ〜」
「ふ~ん、倒せるかニャ~。君たちの周りは敵だらけニャ」
敵とは、マスコミや野次馬のことを指しているのだろう。でも彼らが実際に攻撃してくるはずもなく、この時私は『単なる雑音』としか思っていなかった。
無駄口を叩いているリュウセイの隙をついて、タケルは一気に間合いを詰めた。ガードしている腕を下から弾き飛ばし、がら空きになった胴に正拳突きを打ち込んだ。
――しかし
タケルの一撃がリュウセイを捕らえようとした時、飲みかけのペットボトルが飛んできてタケルの目元に当たった。……校門にいる野次馬が投げた物らしい。
「さっさと死ねよゴミ」
すると
「なあなあ、死んでんならさ、車でひいても罪にならねえよな」
「でも臭くなりそう。洗車大変だろ」
「お~い、誰か火葬場予約してやれよ」
タケルは片目をつむりながら、外した正拳突きから回し蹴りに繋げた。簡単に交わされてしまう様な、かなり強引な連携攻撃だった。
それでもリュウセイはわざと攻撃を受け、大げさに転倒してマスコミへアピールを続ける。
「テロリストゾンビと戦っている二人の青年は大丈夫なのでしょうか? 自衛隊はなにをしているのでしょう」
またもやマスコミの見当違いな発言。そしてその言葉に乗せられて、野次馬の
「なあなあ、どうせ死ぬんだから一発やらしてもらえないかな」
「お前死体とヤりたいのかよ」
「死体っつってもまだ動いてんじゃん」
「でも腐ってんだろ?」
「ああ、そっか。あそこも腐ってんだもんな。……うわ、グロ」
「想像してんじゃねぇよ、アホ」
校門で、聞くにたえない
ここまでになると『聞かなければいい』とか『無視する』とか通用しない。嫌でも耳に入ってきてしまうからだ。
「なんでそんなこと言われなきゃならないのよ……」
見知らぬ人の悪意を受けて、その時の私は、怒りよりもずっと強い悲しみの感情を感じていた。
マスコミや野次馬の言葉が疲れた精神にグサグサと突き刺さる。正直、単なる雑音だと甘く見ていたけど、これは想像以上に辛い。
「「嬢ちゃん、みんな、気をしっかり持ちや。どうせ口先だけの連中の言葉や、飲まれたらかんで!」」
おいもさんの
まるで、悪意の
「……これがアイツらの援軍なのか」
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